研究課題
マウスでは、加齢に伴うグレリンの減少が認められなかった。ヒトにおいてグレリンは、加齢に伴い減少することが知られており、ヒトとマウスでは、加齢に対する応答性が異なる。このことは、老化における生物学的な役割が異なることが推察された。申請者らは、ヒトにおいて、グレリンの低下が、心血管系疾患全体のリスクを高めることを明らかにし、加齢に伴うグレリンの低下を予防することが、高齢期の健康維持に重要であるとともに、グレリン補充療法の重要性が明らかになった。マウスにおいて、グレリンの発現は、エネルギー代謝や栄養素の影響を受けることを明らかにし、肥満に通ずる高脂肪食摂取は、グレリン分泌が減少し、胃でのグレリンmRNA発現も低下した。グレリン細胞は、脂肪酸の受容体に加えて、インスリン受容体や2型糖輸送単体(Glut2)を発現していることから、腸管や血中の栄養状態を受容している可能性が提示された。短鎖脂肪酸の受容体であるGPR41も強く発現していた。GPR41は、腸内細菌によって代謝された短鎖脂肪酸によって活性化されることが知られており、局所の炎症反応と関係する。申請者は、グレリン分泌が、食事に含まれる栄養素や炎症反応によって変化する可能性を示した。肥満は、グレリンの応答性が変化するばかりでなく、グレリン受容体発現を低下させることから、グレリンシステム全体を抑制し、中枢への末梢エネルギー代謝情報が伝達されないことが、中枢性肥満を増悪化させる原因である可能性を提示した。高脂肪食を起因とした炎症は、肥満、糖尿病、神経障害、摂食障害の原因となっており、これら疾患に対して外因性に投与したグレリンは、抗炎症作用を通じて効果を発揮した。ヒトにおいてグレリンの低下は、疾患に循環・代謝に直結することを明らかにし、グレリンの補充は多様な疾患に有効であることを明らかにした。
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