研究課題/領域番号 |
23500784
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研究機関 | 北翔大学 |
研究代表者 |
沖田 孝一 北翔大学, 生涯スポーツ学部スポーツ教育学科, 教授 (80382539)
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研究分担者 |
絹川 真太郎 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60399871)
横田 卓 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (90374321)
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キーワード | レジスタンス・トレーニング / 血流制限 / 筋肥大 / 脳性神経栄養因子 / ミオカイン |
研究概要 |
1)プロトコールの最適化:本トレーニングによる筋負荷を増強させる方法について、血流制限により筋負荷の回復が妨げられる点に着目し、極めて低強度の負荷でも繰り返し回数が多ければ、負荷が蓄積し高強度負荷と同等の効果が得られることが明らかになり、さらに応用範囲が広いことを示された。 2)個体差要因の分析:本トレーニング法における効果の統計学的な男女差は認められなかった。一方、競技者特性については、持久系選手において、瞬発系選手より血流制限による筋負荷増強効果が大きくなることが明らかになり、競技者における臨床応用に活かせる知見が得られた。心不全を有する患者においては、本法を用いることで、推奨される通常のレジスタンス・トレーニング強度より低い強度で同様の効果が得られる可能性が明らかになり、臨床応用が期待される。 3)ミオカインの意義の探求:運動による健康増進効果の背景にあると考えられる脳性神経栄養因子(BDNF)の血中濃度は、年齢依存性に低下するが、複合的身体活動(音楽療法)により再び増加することが示された。このことは、各種介入が脳機能へ与える効果を、BDNFにより客観的に評価できる可能性も示唆している。また動物モデルを用いての基礎研究では、BDNFあるいはBDNFの受容体であるTrkBのアゴニスト投与によりトレーニングを施行する事なしに運動能力が向上すること、筋線維型が遅筋型に変化すること、インスリン感受性が改善すること等が明らかになってきた。これらの知見は、BDNFおよびTrkBアゴニストが、メタボリック症候群、糖尿病あるいは心不全などの病態治療薬として有用である可能性を示唆するものである。 4)研究手技の妥当性の検証:筋へのトレーニング負荷を、筋内代謝的ストレスとして評価する方法を確証できた。このことは、本方法により、様々なトレーニングの効果を単回の測定で予測可能であることを意味する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
国際学術雑誌への掲載数が予定を上回っている。また研究が多面的に発展している。 ①プロトコールの最適化:本トレーニング法による筋負荷を増強させるには、負荷量あるいは繰り返し回数の増加が有効であることを証明した論文を国際学術雑誌に投稿準備中である。②個体差要因の分析:性差、年齢差、競技者特性差、さらに心不全の有無、耐糖能異常の有無における差について検討を続けており、貴重な見解が得られている。この一部の知見を北翔大学生涯スポーツ研究センター年報にて報告した。また競技者特性による違いについては、Medicine and Science in Sports and Exercise(2012;44:413-9)に掲載した。現在、男女差について国際学術雑誌に投稿準備中である。疾患者の特性については、データを蓄積中である。③ミオカインの意義の探求:ミオカインの一つである脳性神経栄養因子について行った断面的調査と試験的介入の結果は、国内学会において報告し、国際学術雑誌に投稿準備中である。また動物モデルを用いての基礎研究は、顕著な成果を得られ、さらに発展中である。一部のデータは、アメリカ心臓病会議(Nov 3-7, 2012, Los Angeles, CA, USA)で発表している。④ガイドライン作成:前述の知見を基にガイドラインを作成中である。⑤若年者への応用:ジャンプスクワット・トレーニングに血流制限を応用した介入研究は、プロトコールを改良して継続中である。これまでのデータは、本年度ヨーロッパスポーツ医学会における国際シンポジウムに採択され発表予定である。⑥研究手技の有効性の検証:筋へのトレーニング負荷を、筋内代謝的ストレスとして評価する方法の有用性を学術的に検証した論文は、Journal of Applied Physiology(2012;113:199-205)に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
1)国内外への発信:これまでの成果を国際学術誌に確実に掲載していく。 2)疾患者データの蓄積:心不全や糖尿病などの慢性疾患を有する対象者のデータを蓄積し、臨床応用のためのガイドラインを完成させる。 3)ガイドラインの臨床実践:次に可能な限りに臨床実践を遂行し、ガイドラインの検証を行い、次年度に繋げる。 4)本トレーニング方法のさらなるメリットの探求:本研究を遂行する際に、低強度負荷を用いるメリットの他に、通常の高強度レジスタンス・トレーニングで時折問題となる血管機能のへの悪影響(動脈スティフネス悪化)が見られないだけではなく、改善する可能性が示唆されたため、この知見に関する総説をまとめて国際学術誌に掲載した(Blood flow restricted exercise and vascular function. Int J Vasc Med. 2012;2012:543218)。本トレーニングが血管機能、動脈硬化に与える影響を引き続き研究していく。 5)若年者への臨床応用:若年者におけるジャンプスクワット・トレーニングへの血流制限の応用は、プロトコールを見直し、順調に継続している。
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次年度の研究費の使用計画 |
学会発表、論文掲載に関わる費用、脳性神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)等 の血液生化学的測定および試薬に要する費用、被験者および実験協力者への謝礼等への使用が予定されている。
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