骨格筋のたんぱく質合成は運動中にmTORC1経路が抑制されることによって低下するが、運動後には反対に増大に転じることが知られている。REDD1は低酸素やATP欠乏によって発現が誘導されるmTORC1阻害因子であるが、運動によって発現が誘導されること、また,その半減期が5分と短時間であることから、REDD1は運動中から運動後に認められる筋たんぱく質合成反応の切り替え調節因子である可能性が考えられる。本研究では、運動によって増大するREDD1の発現が運動後速やかに低下するのか否か、また,それに呼応してmTORC1経路のリン酸化が増大し、たんぱく質合成反応が起こるのか否かを明らかにすることを目的とした。5週齢のSD系雄ラットに60分間のトレッドミル走 (28 m・mim-1) を負荷した。運動前,運動直後,運動後1時間,3時間,6時間,12時間および24時間の時点でラットを屠殺し腓腹筋を採取した。腓腹筋のREDD1 mRNAとたんぱく質の発現、および4E-BP1とリン酸化を測定した。Puromycinの取り込み量をSUnSET法で測定した。トレッドミル走によって腓腹筋のREDD1 mRNAとたんぱく質の発現量はそれぞれ有意に増大し,REDD1 mRNAは運動後1時間、たんぱく質は運動後3時間の時点で運動前のレベルに戻った。また、4E-BP1のリン酸化はトレッドミル走によって有意に低下し、運動後3時間の時点で運動前のレベルに戻った。しかし、持久運動によって筋肉のたんぱく質合成率は変動しなかった。以上のことから、持久運動後の骨格筋において,REDD1によるmTORC1経路の活性の低下は運動後数時間で運動前のレベルに戻るが、飢餓時に運動を負荷しても実際のたんぱく質合成は増大しない可能性が示唆された。
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