研究課題/領域番号 |
23500820
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研究機関 | 昭和音楽大学 |
研究代表者 |
久保田 牧子 昭和音楽大学, 音楽学部, 准教授 (50329314)
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研究分担者 |
北島 正人 秋田大学, 教育文化学部, 講師 (30407910)
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キーワード | 音楽療法 / 心身の健康 / 臨床実践モデル / 高齢者 / 精神疾患 / 不安・抑うつ感 / 歌唱・楽器活動 / 主体性 |
研究概要 |
平成24年度は1年目に実施した地域実践研究としての高齢者25名(平均年齢85.3歳)を継続して対象とした。歌唱と楽器活動に分けた6ヶ月間で12回の音楽療法を施行し、対照群は折り紙活動を行い、両群の前後に実施した生理指標および心理指標を分析した。 結果、音楽療法を受療したグループは、歌唱、楽器活動のいずれの終了時にも脈拍が有意に安定し、STAI1による不安感が有意に低減した。楽器活動は初めて経験する活動であったが高齢者にストレスとならないことが示唆された。実施日の夜間の睡眠・不安感・抑うつ気分に関する質問紙調査12回(3,4クール)の結果は、(睡眠)よく眠れた80%、不眠2%、変わりない18%。(不安感)穏やか78%、不安2%、変わりない20%。(抑うつ気分)抑うつ気分なし82%、変わりない17%、抑うつ気分1%であった。音楽療法を受療した高齢者の80% は、不安感・抑うつ感を感じることがなく熟眠したことが示唆された。対照群の折り紙活動を施行したグループは、収縮期血圧に有意な増加が認められた。 研究2年目は音楽療法の対象を精神科入院患者に拡大し、歌唱、楽器活動を分けた音楽療法を実施し、前後に生理・心理指標を施行した。24名の精神科入院患者を2グループ(A)(B)に分けて、4か月で2クール(12回)、音楽療法を実施した。 結果、Aグループは歌唱活動により収縮期血圧、拡張期血圧が有意に低下し、楽器活動では拡張期血圧が有意に上昇した。Bグループは歌唱活動および楽器活動のいずれもSTAI1の不安が有意に低減する結果であった。対象患者24名に対する分析結果は、歌唱活動は収縮期血圧、拡張期血圧が有意に低下することが認められた。楽器活動では拡張期血圧が有意に上昇し、STAI1による不安感が有意に低減する結果となった。精神科入院患者の緊張と弛緩、解放感などの側面から検討する材料を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心身の健康に寄与する音楽療法の効果を対象別に検討する研究経過として、高齢者(後期高齢者)から開始し、精神疾患患者へと拡大した。高齢者の音楽療法を2年間で4クール実施した経緯から、精神疾患患者に対する音楽療法の期間も2年間の継続が望ましい。また「対象に応じた実践プログラムの検討」を目的としていることから、研究の発端となった失語症患者の音楽療法に取り組んできたが、対象の特性から対象人数および生理・心理指標によるデータが十分に確保できていない。一方、精神疾患の対象からは、音楽療法活動を歌唱と楽器活動を分けて提示したことが、対象者にとって取り組み易さの一因となったことが言語表現および積極的な参加として現れた。 今後は歌唱および楽器活動による混合活動との比較を十分に行うことで、研究としての報告に繋がることから、3年目の課題になると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
精神疾患患者の継続的な音楽療法実施および、失語症者の音楽療法臨床を展開し、心身の健康の視点による対象別の音楽療法の効果の明確化を臨床を通してまとめられるようにする。2年目に行った障がい幼児の音楽体験の初期段階での音楽との関わりの実態について、歌いかけによる楽器表現を通して観察することができた。音楽療法実施中のVTR記録の分析および発達段階が同等の健常幼児を対象とした同一の音楽療法を実施し分析を通して、音楽が人間に働きかける基本的な視点を明確化し、平成23年度、24年度に実施してきた音楽療法の効果の分析の基盤とすることを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究課題である「対象に応じた臨床実践モデルの検討」に向かい、継続的に展開する音楽療法実践に関わる経費および3年間の音楽療法実施で得たデータの解析に関わる費用を検討している。なお研究最終年度であることから、本研究で得た知見を音楽療法および関連学会に発表および論文として投稿する諸費用が必要である。 さらに本研究のために協力してくれた対象患者の中で音楽療法の継続を希望する者に対する今後の音楽療法の臨床展開について方向性を立てるための経費も検討している。
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