研究課題/領域番号 |
23500838
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新井 秀明 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (60313160)
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キーワード | FOXO / 老化 / ストレス耐性 |
研究概要 |
ヒトを含む生物の加齢にともなう老化現象は、進化的に高度に保存された機構により制御されていることが近年の研究から分かってきた。この老化制御機構のうちで最も詳細に研究が進んでいるのはインスリン・インスリン様成長因子シグナル系である。インスリン・インスリン様成長因子シグナル系において、老化の制御を行っている中心的な転写因子としてFOXO転写因子が知られている。昨年度・本年度の研究により加齢指標タンパク質30がインスリンにより負の制御を受けることが明らかとなった。FOXO転写因子はインスリンシグナルにより抑制され、また加齢指標タンパク質30の遺伝子配列から、FOXO転写因子はこの遺伝子の制御を行っている可能性が示唆される。一方で、FOXO転写因子による老化制御において重要なはたらきを持つことが知られている遺伝子として低分子量熱ショックタンパク質が知られている。熱ショックタンパク質は他のタンパク質の品質管理を行うことで細胞にストレス耐性を与えることが知られており、このような細胞レベルでのストレス耐性の獲得が、老化を抑制し長寿をもたらすことの分子的な本質であることが推測される。今年度の研究では、老化制御において重要なはたらきをもつAMPキナーゼと熱ショックタンパク質の発現に関連があることが明らかとなった。AMPキナーゼの活性化剤であるメトフォルミンによって特定の熱ショックタンパク質の発現に変化が観察された。以上のことから、今年度の研究から老化制御の分子機構に関して新たな制御分子のひとつが明らかになりつつあるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究からは、実験に使用していた細胞株においては加齢指標タンパク質30の発現量が極めて微量であり機能面での解析が極めて困難であることが予想された。また、発現量が極めて少量であるため遺伝子発現の解析も検出が困難であることが予想された。この遺伝子に関してはFOXO転写因子の標的遺伝子である可能性があるものの、上記の理由から、この転写制御を実験的に証明することは困難であると考えられた。FOXO転写因子の標的として、タンパク質の機能が明確である熱ショックタンパク質が知られるが、この発現機構を明確にすることがより老化現象の分子的な実態を解明するのに有効であることが推測された。今年度の研究では老化制御において重要なはたらきをもつAMPキナーゼとの関連が見いだされ、今後の詳細な検討を行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で新たに明らかとなったAMPキナーゼと老化制御の関連に関して、さらなる検討を行う。細胞にAMPキナーゼ活性化剤であるメトフォルミンおよびAICARで刺激を行い、熱ショックタンパク質など老化に関与していることが分かっている遺伝子の発現をタンパク質・mRNAのレベルで検討する。また、この変化がFOXO転写因子などの老化制御関連の転写因子による制御を介したものであるか否かをsiRNAを用いた実験から明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養に用いる培地・血清・試薬の購入に用いる。タンパク質の発現を検討するための抗体・実験試薬の購入に用いる。mRNAの解析のためのリアルタイムPCRの試薬の購入に用いる。FOXO転写因子やHSF転写因子、AMPキナーゼのsiRNAによるノックダウンのためのsiRNAおよびトランスフェクション試薬の購入に用いる。
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