加齢指標タンパク質30はラットの肝臓において加齢により顕著に発現が減少するタンパク質として同定された。加齢指標タンパク質30の発現調節機構を解明することは老化の分子制御のメカニズムを探る上で重要である。本研究では、ヒト由来HepG2細胞を用いて加齢指標タンパク質の発現調節機構を検討した。老化制御において最も重要なシグナル伝達系はインスリン・IGF-1のシグナル伝達系である。HepG2細胞にインスリン刺激を与えると加齢指標タンパク質30のタンパク質量の減少が観察された。また、ヒトの加齢指標タンパク質30の遺伝子を検索したところ、FOXO転写因子の認識配列が存在していた。FOXO転写因子は老化制御シグナルにおいて最も重要な転写因子であり、インスリン・IGF-1の刺激により活性化されるAktによりリン酸化を受け不活性化される。以上のことから、ヒト加齢指標タンパク質30の発現調節にはFOXO転写因子の関与が強く示唆された。しかしながら、HepG2細胞における加齢指標タンパク質30の発現量は、マウス肝臓における発現量と比較して極めて微量であり、HepG2細胞においては何らかの因子が不足しているか、発現を強く抑制している因子の存在が考えられた。FOXO転写因子はさまざまな因子により調節を受けることが分かっているため、それらの因子の活性化剤を用いた実験を行ったが、この細胞において加齢指標タンパク質30の発現を著しく上昇させることはできなかった。この実験の過程で、FOXO転写因子の活性に必須である転写コアクティベーターとしてPGC-1aの関与が考えられ、実際にPGC-1aの発現を高める刺激では加齢指標タンパク質30の発現が高まることが観察された。これらの結果から、ヒト加齢指標タンパク質30の発現制御はPGC-1aの発現量に依存するらしく、PGC-1aの上流因子の動態の解析が重要である。
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