研究課題
本研究の目的は、運動負荷時の中心動脈圧波の応答を指標とする血管内皮機能評価法の有効性を検証することである。平成24年度は、前年度の検討で確立した検査プロトコールの再現性に関する予備的検討を実施したうえで、健康な成人男性を対象に幅広い年齢層の集団を選定して、運動負荷による中心動脈圧波の応答に及ぼす加齢の影響を把握し、年齢を加味した暫定的な評価基準値を作成するための検討を行った。検討1:若年男性12名を対象に、自転車エルゴメーターを用いて、60%の相対心拍数に相当する強度の固定負荷運動を10分間実施し、運動終了後から5分後にかけて動脈圧波形を記録した。また、同一被験者に対して同条件で1週間後に再測定を行った。2:高血圧、脂質異常症、糖尿病、過度の喫煙歴がないことを条件として、20歳代から50歳代までの各年代別に対象者94名を選定し、運動負荷試験における動脈圧波形の記録、身体計測、血液・尿検査、各種動脈硬化検査を行った。その結果、①運動負荷に伴う収縮期血圧の上昇は上腕動脈に比べて中心動脈で軽度であり、上腕動脈と中心動脈の脈圧比も運動前に比べて終了後に有意に高値となった。②中心動脈圧の各パラメーターの再現性については、運動負荷前よりも負荷後の計測値において高い傾向にあった。③運動負荷後の脈圧比の変化には加齢による差違が認められ、年齢階級が高くなるにつれて連続的に低値となった。④年齢階級ごとの平均値と標準偏差に基づいて暫定的な評価基準値を作成した。以上のことから、前年度の検討により確立した検査法は血管内皮機能の評価法として妥当性と再現性を有することが示された。また、中心動脈のパラメーターの変化には加齢の影響が認められたことから、高血圧、脂質異常症、高血糖などのリスクの集積に伴う血管内皮障害を精度よく捉えるためには、年齢を加味した評価基準値の設定を行う必要があることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度の目的は、運動による中心動脈圧波の変化に及ぼす加齢の影響を把握したうえで、年齢を加味した暫定的な評価基準値を作成することであった。このために、当初の計画通り、某企業の従業員で、研究への参加協力の得られた者のなかから、高血圧、脂質異常症、糖尿病、過度の喫煙歴がないことを条件として、各年代別に必要な例数の対象者を選定し、作年度の検討で確立された検査プロトコールを用いて運動負荷試験および動脈圧波形の計測を行った。また、この調査に先駆け、若年健常男性を対象に、運動負荷条件の再確認ならびに測定結果の再現性に関する予備的検討を追加で実施した。現在、これらの調査研究で収集された資料を分析して、血管内皮機能や動脈伸展性の評価において利用しうる評価基準値について検討中である。なお、調査研究の実施に際しては、連携研究者などとの協力や調査のフィールドとの連携も十分に行われ、計画に沿って円滑に遂行することができた。
本研究の今後の計画として、平成25年度は、動脈硬化危険因子の有無や集積の程度が波形変化にどのように反映されてくるか、あるいは、血管壁硬化度を評価する他の指標とどのような関係性があるかを、横断研究および介入研究によって明らかにし、血管内皮機能評価法としての有効性や妥当性を検証する計画である。この検討においても某企業の従業員を対象者とし、横断的研究では、高血圧、脂質異常症、高血糖の集積状況により集団を選定して運動負荷試験と動脈圧波形の記録、各種動脈硬化検査、血液・尿検査を行う。また、介入研究では、危険因子が複数以上合併した集団を用いて、歩行による軽強度の運動を週3回以上実施する運動療法を3ヶ月程度施行し、その前後で、動脈圧波形パターンと血管壁の硬化度を表す種々のパラメーターの変化を相互に比較する。
平成25年度は、当初の研究計画に沿って横断的研究と介入研究を実施する予定である。横断研究の対象者予定数は80名で、述べ4~5日間でデータ解析に必要となる資料収集を行う予定である。また、介入研究の対象者予定数は30名で介入期間は3ヶ月を予定している。研究費の使途としては、資料収集に必要となる消耗品類の購入、旅費・謝金等の人件費、血液・尿検査の分析委託料、装置のレンタル料などを考えている。なお、県内の複数の事業所を移動して調査を行う計画であり、それに応じた旅費の追加もしくは機材の輸送費なども想定される。さらに、国内外での研究発表に係る参加費または旅費、論文の作成および英文校正、雑誌投稿、研究成果の公開に係る費用についても研究費から支出する予定である。
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Hypertension Research
巻: 24 ページ: 印刷中
doi:10.1038/hr.2012.215