本研究は、運動負荷時の中心動脈圧波形の応答を指標とする血管内皮機能評価法を確立することが目的である。初年度は、血管壁の機能低下が最も顕在化する最適なプロトコールを決定するために、危険因子の非保有者と複数保有する多重リスク者を対象として、自転車エルゴメーターによる運動負荷試験を種々の負荷条件で実施した。その結果、運動負荷時の中心動脈圧波は運動に伴う末梢血管の拡張反応を反映しており、その波形パターンの変化から内皮機能の障害や動脈伸展性の低下を捉えうることが示唆された。また、血管拡張能の低下を検出するためには、循環血流量が増大し、動脈壁に相応なずり応力を働かせるような中等度以上の強度を設定するのが適切であると考えられた。翌年は、本検査法で血管内皮機能を評価するための基準値の設定に向けた検討として、幅広い年齢層から危険因子の非保有者の集団を選定して検査を行った。その結果、運動負荷に伴う波形変化には加齢の影響がみられたことから、高血圧や脂質異常症、高血糖、喫煙などの危険因子の曝露による影響を精度よく捉えるには、年齢を加味した評価基準値の設定が必要であると考えられた。また、最終年の検討からは、運動負荷に伴う中心動脈圧の波形パターンが血流依存性血管拡張反応(FMD)、尿中微量アルブミン、脈波伝播速度(PWV)などの他の血管壁硬化の指標または左室の後負荷の指標と関連することが明らかになった。さらに、危険因子を複数保有する多重リスク者を対象に、歩行による軽強度の運動を週3回以上実施する介入を実施したところ、運動療法の施行後に波形パターンが改善する変化を認めた。以上のことから、運動負荷時の中心動脈圧波形の応答は、血管内皮機能の評価指標として、また、身体運動などの生活習慣修正による心血管リスク軽減効果の指標として有用であると考えられた。
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