研究課題/領域番号 |
23500848
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
吉川 貴仁 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10381998)
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キーワード | 食欲 / 運動習慣 / 脳磁図 / 質問紙 |
研究概要 |
本研究では、運動の食欲・食行動に対する影響を脳科学的に理解し、生活習慣病や肥満者に対する新たな生活指導法の作成を目指す。昨年度は、ヒトの食行為における最終的な段階である食意欲が生じる際の脳科学的機序を調べる研究を実施し、①各人の普段の食行為の中の主観的な食意欲の程度を調べる質問紙(Power of food scale、以下PFS)の日本語版の確立及び、②空腹時や腹八分時に食意欲を湧かせた時に生じる脳神経活動(脳磁図解析)とPFSで調べた各人の主観的な食意欲との関係について検討した。PFSは各人の食意欲を、 a)食物がまだ目の前に来る前でも湧く意欲、b)食物が目の前に出てきたときの意欲、c)食物を口に入れてさらに食べたくなる意欲、の3因子にわけて調べるものである。 本年度は、食意欲に関する各人の程度が、普段の運動習慣(の少なさ)に関連しているかを調べた。特に1年に1度も積極的な運動を行っていないと答える、Non-exercise life-styleの成人に注目した。まず、若年日本人成人119名を対象にした予備的検討で、運動習慣と空腹時・腹八分時の食意欲の程度を簡易質問紙で調べたところ、年齢・性別・Body mass indexで補正した重回帰解析で、空腹時の食意欲の強さがNon-exercise life-styleと正の相関を示した。次に同様の若年成人268名を対象に、PFSを用いた本解析を行ったところ、同様の重回帰解析で、b)の食べ物が目の前に出てきたときの意欲の強さ及び、a)-c)までの総合的な食意欲の指標がNon-exercise life-styleと正の相関を示した。以上の結果より、Non-exercise life-style(普段の運動習慣の少なさ)が食に対する意欲の高さと関連し、運動の習慣化により食の意欲や食生活も修正できる可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究において昨年度確立できた食意欲に関する心理質問紙を使い、継続的な運動習慣(あるいは運動を怠る習慣)が食意欲に与える影響に関して一定の結果を出しており、運動と食意欲の関係を調べる研究として順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に行った食意欲に関する脳磁図解析では、空腹時・腹八分時ともに、食に関する感覚を集約する中枢である島皮質の活動が300ミリ秒前後で観察された。平成25年度は、食意欲を意識的に抑制させたときの脳神経活動に関して前頭皮質を中心に調べる。具体的には、若年成人被験者を対象に、12時間空腹条件で食物の写真を提示した際に<食べよう>と念じるとき(食意欲)と<食べてはいけない>と念じるとき(食意欲抑制)の脳神経活動の差を脳磁図で解析する予定である。この食意欲の抑制実験の結果は、平成24年度に明らかにした運動習慣が食意欲(の抑制)に働く機序を知る鍵になると考える。 また、横断的な質問紙研究の実証のために、単回・複数回の前向きの運動介入により、食意欲に関する脳神経活動がどのように変化するかを検討する。具体的には、我々が以前消化管ホルモンと運動の関係を報告したプロトコールに則り、30分~1時間の有酸素運動(エルゴメータ)ないしは種々のレジスタンス運動を行った前後に、食欲や空腹感、食事摂取量の評価とともに、脳磁図(食品提示のときの反応)の運動前後の変化を観察する。さらに可能であれば消化管ホルモンも測定して下位と高位の脳の関係も調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
運動負荷試験や各種消化管ホルモンの測定、脳磁図の解析に必要なコンピューターソフトの購入などにかかる費用や、被験者への謝金に使用する予定である。
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