本研究では、運動が食欲・食行動に対して与える影響を脳科学的に理解し、生活習慣病者や肥満者に対する新たな生活指導法の作成を目指す。 平成25年度までの研究では、質問紙調査および時間・空間分解能に優れる脳磁図解析を用いて、①ヒトの食行為の最終的段階である『食意欲』の強さが、普段の運動習慣の乏しさと正相関すること、②空腹時や腹八分時に食品の画像提示とともに食意欲を湧かせた時、島皮質において瞬時(画像提示後300ミリ秒前後)の脳活動が生じ、その強さが日常生活における各人の食意欲の強さと正相関すること、③逆に食意欲を意識的に抑制させると、500~600ミリ秒前後で背外側前頭皮質と補足運動野が有意に活動することなどを見出してきた(なお、平成26年度に、上記②の腹八分時の脳活動に関する脳磁図研究の成果を論文発表した)。 平成26年度には、種々の介入が食意欲の強さに影響を与える可能性を検討した。特に、前年度までの研究成果で各種の感覚情報を統合する島皮質が食意欲の形成に重要な役割を果たすことが判明したので、身体運動をイメージする感覚情報を(直接身体を動かす代わりに)与えたときに現われる心理的・生理的変化に着目し、各人が湧かせる運動の心的イメージの種類・程度が食意欲に与える影響を調査した。既存の運動イメージに関する英語版質問紙を原作者の許可を得てバックトランスレーションの手続きで日本語版にし、若年日本人成人191名を対象に質問紙調査を行った。その結果、良好な再現性(Cronbach’s α係数=0.96)が得られた他、英語版の質問紙と同様に、①運動により得られる健康的な自分のイメージ、②運動技術のイメージ、③運動による爽快感などのイメージ、④自己効力感のイメージ、⑤運動の動作や手続きのイメージ、の5因子が抽出でき、また日常の運動習慣や食意欲との関係性も明らかにし、日本語版の質問紙の再現性・妥当性が確認できた(海外雑誌投稿準備中)。
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