研究課題/領域番号 |
23500855
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
広瀬 寛 慶應義塾大学, 保健管理センター, 准教授 (50208881)
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研究分担者 |
朴沢 重成 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (40181482)
斎藤 郁夫 慶應義塾大学, 保健管理センター, 教授 (60129442)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 人工知能システム / 遺伝子多型 / メタボリックシンドローム / アディポネクチン |
研究概要 |
肥満や糖尿病・高血圧・脂質異常症などは、内臓脂肪蓄積およびインスリン抵抗性を基盤として互いに合併しやすく、メタボリックシンドロームとして注目されている。その病態は虚血性心疾患や脳卒中といった心臓病や脳血管障害の強い危険因子であり、医療経済的な問題にとどまらず、発症した本人の仕事や生活の質を著しく低下させてしまうため、予防が最も重要である。本研究では、耐糖能異常や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病の発症を予知・予防することを目的として、人工的ニューラルネットワーク(ANN)などの人工知能システムを用い、ベースラインの各種健診項目や高分子量(HMW)アディポネクチン濃度、遺伝子多型(SNPs)、およびライフスタイルなどの意義を検討した。 慶應義塾大学保健管理センターの実施する定期健康診断の対象となる教職員(主に日吉・三田・信濃町地区、20~71歳)および慶應義塾大学病院内科に入院中または外来通院中の患者(20~80歳)のうち、本研究に関してインフォームド・コンセントの得られた者を対象とした。ライフスタイルの調査は、健康診断の際 毎年調査票にて行っており、2000年や2004年, 2010年などの結果もインフォームド・コンセントを得た上で活用した。採血した血液10 mLからDNAを抽出し、遺伝子多型解析に供した。 提供者から研究試料の提供を受ける場合は、提供者に対して事前に十分な説明を行った上で、自由意志に基づく同意(インフォームド・コンセント)が与えられなければならない。また、提供者の遺伝情報は厳重に管理され、十分に保護されなければならない。このために、提供資料の匿名化を行い、提供者と新たに付ける符号との対応表は個人識別情報管理者によって厳重に管理されている。なお、本研究計画は当大学医学部倫理審査委員会において、既に承認を受けている(13-70-3号)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病や心血管病の発症を予防することを目的として、インスリン抵抗性指数 (HOMA-IR)や血清高分子量アディポネクチン (HMW-ADPN)濃度、酸化ストレスマーカーなどとの関連を検討した。さらに、理化学研究所と共同で、遺伝子多型と2型糖尿病との関連を検討した。 本研究に関してインフォームド・コンセントの得られた者を対象とした。血清HMW-ADPN濃度と、体格指数 (BMI)、腹囲、血圧、血糖、HbA1c、血清脂質、肝機能、尿酸や酸化ストレスマーカー、高感度CRP (hsCRP)濃度、HOMA-IR、および糖尿病・高血圧・脂質異常症などとの関連を検討した。遺伝子多型の解析には、末梢血白血球よりDNAを抽出し、Invader法または直接シークエンス法を用いた。血清インスリン濃度はEIAで、HMW-ADPN濃度はELISA法またはCLEIA法にて、hsCRPはネフロメトリーにて測定した。 CLEIA法で測定したHMW-ADPN濃度の中央値は、男性2.50 μg/mL, 女性4.95μg/mLで、同時測定, 日差変動とも3.3%以下で、従来のELISA法とも r=0.984 (n=297)と非常に良い相関であった。男女ともHDL-Cと強い正の相関が、BMI, 腹囲, TGなどと強い負の相関が認められた。ステップワイズ多重回帰分析でHMW-ADPNは、HDL-C, 性別, HOMA-IR, hsCRPとの関連が認められた (P<0.0001)。また、男女ともNGT, IGT, DMの順にHMW-ADPNは低下し、主に肥満やインスリン抵抗性を介していることが示唆された。 さらに、KLF14やKCNQ1 locusの遺伝子多型と2型糖尿病との関連が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24~26年度も、昨年度の実績をふまえて解析・検討を進める。糖尿病(DM)および糖尿病予備軍(PreDM)は増加の一途であり、それらに対する予防および改善の方策がますます重要である。我々は、総合大学在籍中の教職員を対象に6年間の健康診断データを検討し、耐糖能の悪化に寄与するベースラインの因子は何かを男女別に検討したい。 2004年に25-60歳かつDMでなく、2010年にも当施設の定期健康診断を受診し本研究に関してインフォームド・コンセントの得られた男性390名および女性147名を対象とする。2004年および2010年の各時点で、DM, PreDM, 正常の3群に分類し、耐糖能悪化に寄与するベースライン因子を、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR), インスリン分泌能 (HOMA-β), 高分子量アディポネクチン(HMW-ADPN)濃度を含めて検討する。血清インスリンはEIA、全量ADPNはELISAにて、HMW-ADPN濃度はCLEIA法またはELISA法のキットを用いて測定する。 さらに、2型糖尿病などと関連のある遺伝子多型(SNPs)を検索し、血清HMW-ADPN濃度やHOMA-IRを含めて縦断研究で検証する。SNPsの解析情報から、耐糖能異常や高血圧、メタボリックシンドロームなどに関与するSNPsを、一度に多数例解析できるようにシステムを構築したい。 これらの研究により、2型糖尿病や心血管病のハイリスクグループが同定されれば、健常者における効果的な一次予防や糖尿病患者の治療法および二次予防のための対策の開発に有効である。今後さらに、既知または未知の遺伝子との関連も検討していきたい。得られた有益な知見は、国内や国外の学会で発表し、和文や英文の雑誌に投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、前年度の実績をふまえて更に解析・検討を進める。本研究では、当大学在籍中の教職員を対象に6年間の健康診断データを検討し、耐糖能の悪化に寄与するベースラインの因子は何かを男女別に検討する。データ解析用のコンピューターソフトやPC、ノート、ファイル等の消耗品が必要になると考えられる。 また、血清中のインスリン濃度はEIAにて、全量ADPNはELISA法にて、HMW-ADPN濃度はCLEIA法またはELISA法のキットを用いて測定するので、測定キット代等の消耗品が必要である。その他、高感度CRPや酸化ストレスマーカーなどを含めて、外部検査機関(SRL, MBCなど)に測定を委託する予定である。 さらに、遺伝子多型(SNPs)の解析には チューブ、チップ等の消耗品の他、DNA抽出用のキットやInvader法または直接シーケンス法のための試薬等が必要である。SNPsの解析情報から、耐糖能異常や高血圧、メタボリックシンドロームなどに関与するSNPsを、一度に多数例解析できるようにシステムを構築する予定である。 なお、得られた有益な知見は国内や国外の学会で発表し、和文や英文の雑誌に投稿する予定であり、他大学や他国の研究者と本研究やその周辺の関連情報を意見交換し、研究の推進に役立てたい。米国糖尿病学会(6月7日~13日、フィラデルフィア)への国外旅費、および英文校正や雑誌投稿費用などを使用する予定である。
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