1.目的:本研究は、成人男子(5名)を対象に、自然環境を利用した高地(低圧低酸素環境下)における2日間の歩行運動を行った場合、運動前及び運動終了後(翌朝)の自律神経系の応答及び末梢血液循環の動態にどのような影響を及ぼすかを検討した。 2.方法:被験者には、2日間の低圧低酸素環境下で歩行運動を行わせた。1日目は、標高;1260~1400mを90分間、2日目は標高1400~1650mを140分間(休息を含む)の歩行運動であった。歩行運動前及び2日間の歩行運動終了後(翌朝)に、自律神経活動(体位変換テスト)、末梢血液循環(加速度脈波の変化)の動態を測定した。 3.結果及び考察:1)歩行運動前後における加速度脈波波高比(b/a)及び加速度脈波加齢指数(APG-AI)値は、歩行運動前後で有意の差がみられなかった。しかし、APG-AI値は、特に、中高年者(3名)において歩行運動前(平均-0.10)より歩行運動後(平均-0.36)に明らかに低値を示した。2)歩行運動後の加速度脈波波高比(d/a)は、歩行運動前に比較して、有意な増加を示した。3)歩行運動前後における体位変換テスト時の自律神経活動は、とくに、2名において、歩行運動前が安静(座位)及び立位で健常型、起立で交感神経反応過剰型であったのに対して、歩行運動終了後では安静から起 立・立位まで自律神経活動が適切に反応していた(いずれも健常型)。4)自律神経機能の総合評価は、歩行運動終了後(平均8.6点)が歩行運動前(平均7.6点)よりも高い得点になった。以上の成績から、とくに、中高年者において標高1500m前後の低圧低酸素環境下における2日間の歩行運動は、運動終了後の翌朝において、自律神経活動の適切な反応がみられ、末梢血液循環を一時的に改善する傾向があることが示唆された。
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