研究課題/領域番号 |
23500866
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
丹羽 淳子 近畿大学, 医学部, 講師 (60122082)
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研究分担者 |
高橋 英夫 近畿大学, 医学部, 教授 (60335627)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 運動 / 脳血管障害 / 血管新生 / 神経再生 / 血管内皮前駆細胞 / 神経幹細胞 / 再生環境 / 調節因子 |
研究概要 |
自然発症性脳卒中モデル動物SHRSPは、本態性高血圧症患者と同様の経年変化後おこる脳血管傷害をきたすリスクファクターを多数もつ。前課題の成果に基づき、運動習慣と再生の関係について運動開始期と運動介入期間をかえて飼育し、発症と発症後の回復を比較することにより血管幹細胞・神経幹細胞活性化の違いと再生環境に関与する調節因子を検討した。実験は5週齢より(1)一般ケージ内で飼育(非運動群)(2)発症後も継続的に回転装置付きケージ内で飼育(運動群)(3)非運動後、発症2日目(炎症反応期)から運動介入(非→運動群)(4)6週間運動ののち非運動(運動→非群)の4群とし、発症経過と生存率、一般生理学的変化を比較した。発症前までの血圧、体重ともに4群に差はなかった。一方、発症は非(非→運動を含む)群、運動→非群、運動群の順に早く、各群間に有意差を認めた。また生存率は、運動群と運動→非群に有意差を認めず、発症後に運動を始めた非→運動群も非運動ラットに比し、著明に生存率を延長した。発症後の運動量は群間に差はなく、軽度の運動量であった。これらの結果は、発症前の運動介入のみで脳卒中発症の抑制ならびに発症後の障害軽減と生存率の延長効果があることを明らかにし、運動による血管新生・神経再生能の活性化を示唆した。また発症後の軽度の運動介入でも生存延長に関連する再生機構の活性化がもたらされることが示唆され、イベント後のリハビリテーションの有効性を支持した。血管および神経新生に重要な調節因子であるVEGF・CXCL12・BDNFは血清および脳幹細胞域で運動により有意に上昇した。また核内タンパク質で組織内幹細胞活性化の関与が注目されているHMGB1は、SHRSPでは脳・心・血管組織で発症前から加齢に伴い漸減したが、脳幹細胞域核内発現量は運動ラットでは非群に比し多かった。また脳幹細胞域の幹細胞の増殖・分化は運動により著明に増加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
骨髄から採取・分離した幹細胞の生体内移入実験が進まなかったので、運動の強度や運動開始の時期や期間の長さをかえて再生環境の比較をし、ヒトへの応用の際に運動習慣の有効性がより明確になるようにした。来年度は、再生環境をかえた条件下で、血管幹細胞と神経幹細胞を分離して活性を調べた後、当初の計画に追加して、培養実験を計画中である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の運動条件を変えた4群の実験系で、骨髄および末梢血、脳幹細胞領域より血管と神経の幹細胞および前駆細胞を単離して、その活性や量を測定比較する。また神経幹細胞と血管幹細胞(前駆細胞)を共存培養し、神経と血管連関について検討する。各実験群ラットの神経機能(運動機能)を継続して測定し、脳組織の病理学的検討をおこなう。組織および血清、尿中の調節因子の濃度変化を発症前から発症後時系列に測定する。培養実験系に、これらの調節因子やその抗体、または阻害薬、受容体の阻害薬を加えて調節因子とその受容体の検討をおこなう。再生環境の検討のために、今年度の炎症反応期に加えて、血管新生や神経再生が優位におこっている期間に運動介入を行い、幹細胞の動態と調節因子の産生の変化を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
運動負荷実験のため、動物と飼料、培養実験に用いる培養液、ラット脳微小血管内皮細胞株と脳神経細胞株を購入する。ラット骨髄や脳および血液から、血管幹細胞(内皮前駆細胞)や間葉系細胞、神経幹細胞を分離するための抗体や分離試薬、培養器具を購入する。脳組織の免疫組織化学的検討を蛍光顕微鏡と電子顕微鏡を使って行うため、抗体および固定液や発色試薬等を購入する。予測される調節因子の測定のためのELISAキット、調節因子とそれらの受容体の阻害薬や抗体を購入する。
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