研究課題/領域番号 |
23500866
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
丹羽 淳子 近畿大学, 医学部, 講師 (60122082)
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研究分担者 |
高橋 英夫 近畿大学, 医学部, 教授 (60335627)
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キーワード | 運動 / 脳血管障害 / 血管新生 / 神経再生 / NO / 神経幹細胞 / 再生環境 / 調節因子 |
研究概要 |
脳卒中傷害後の血管新生と神経再生における重要な因子の一つであるNOの関与について、重症の高血圧に伴う脳卒中を自然発症する病態モデルラットSHRSPを使って検討した。NOの基質であるL-アルギニンを脳卒中発症後投与し、内皮型NO合成酵素由来のNO産生を増加させた時、無処置群に比し有意な延命効果と病変部の血管新生ならびに海馬歯状回と側脳室下帯における神経幹細胞の増殖と神経細胞分化促進効果を認めた。また血清中のCXCL12や脳由来神経成長因子BDNFの産生が増加した。しかしながら病変部周囲に集簇した神経幹細胞から成熟神経細胞への分化は認められなかった。 これらのアルギニン発症後投与の効果は、発症前からアルギニンを投与した時と生存率、血管内皮前駆細胞数、神経幹細胞数およびCXCL12やBDNF産生量ともに差はなかった。またアルギニンと同様の薬理作用をもつ薬物投与実験によっても同等の血管新生や神経再生効果を認めた。 一方、運動介入はアルギニン投与群に比し発症率も有意に抑制され、病変部の血管新生とともに神経細胞の生存と分化を促進した。また血清中のCXCL12とBDNF産生量は発症前から無処置群より増加していた。またNO合成酵素阻害薬のL-NAME投与によって、血管新生、神経幹細胞の増殖や分化促進効果は抑制された。 これらの結果は、発症後のNO産生増加は、①血管と神経の新生誘導因子を増加させることができる、②脳幹細胞域での神経幹細胞の生存と分化を促進する、③運動介入による血管新生および神経再生、発症抑制や脳傷害部の修復促進環境にはNOが重要な因子である、④運動介入による脳障害後の再生機構の促進効果にはさらに他の因子や細胞間の連関が必要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①薬物投与実験が動物の供給等の遅れと、また予測した結果が得られたので、同等の薬理作用をもつ他の薬物の追加実験も行ったため、計画以上の期間を要し、細胞株を使った培養実験に至らなかった。 ②本研究過程で、神経再生機序にかかわると思われる他の知見が見つかり、申請計画外に実験が広がったため当初の計画どおりに進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度行ったL-アルギニン投与と他の薬物投与実験から得られた組織標本やサンプルを使って、運動習慣がもたらす再生機構について調節因子と細胞連関を比較する。 ①組織学的には、免疫組織化学的検討に加えて、電子顕微鏡観察を行い、NOや運動介入が正常組織と同等の機能を有する血管新生を誘導しているのか、血管内皮細胞、神経細胞、グリア系細胞間の連関はどうかについて検討する。 ②傷害細胞から放出された核酸タンパク質HMGB1は、NOや脳や骨髄細胞由来、さらに血清中因子類と何らかの相互作用をもって傷害部の再生過程に影響を及ぼしていると予想されるので、実験から得られたサンプルを分析するとともに、単体どおしの結合実験等を行う。現在すでに抗体を使ったin vivoの実験が進行中である。 ③運動習慣により、再生にかかわる幹細胞自体の活性(細胞老化の程度)が変化することが報告されているので、骨髄細胞から単離した幹細胞や間葉系細胞、凍結脳組織標本を用いて幹細胞老化を検討する。 ④今年度予定通りに進まなかったが、細胞株(脳神経幹細胞や血管内皮細胞)にラット実験群より得られた生体サンプルを共培養し、再生環境にかかわる調節因子の検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
動物実験を行うので、動物と飼料の購入、また組織学的検討のための抗体や他の試薬類の購入に使用する。培養実験や結合実験に用いる細胞や候補因子(CXCL12やBDNFなど)も購入する。論文発表の準備費用が必要である。
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