成体脳における神経幹細胞は海馬と側脳室にのみに存在するとされてきたが、ある条件下ではこれら以外の脳内に神経新生が認められている。視床下部を含む第3脳室周囲組織は、自律神経系の中枢かつ内分泌系の上位中枢として極めて重要な機能が集中していて、側脳室と同様な脳室周囲の上衣細胞と胎生期に存在するradial glia cell様のGFAP+/Nestin+/vimentin+で認識される幹細胞の性格をもつタニサイトに囲まれている。本研究の課題である再生環境を検討する上で、通常神経新生が起こらない第3脳室周囲に脳卒中後に神経新生が生じるかどうか、また運動負荷によってこれらが促進されうるかどうか、脳卒中後の内因性神経機能修復機構の活性化が全身的な恒常性機能回復にも関与すると考え、脳卒中自然発症高血圧ラット(SHRSP)に自発運動を行わせて、成体脳の第3脳室周囲細胞ニッチの神経新生について検討した。 自発運動により、正常WKYおよびSHRSPのいずれにおいてもタニサイトは増加した。またSHRSPの非運動群・運動群のいずれも発症直後の3日目にタニサイトは減少したが、運動ラットでは1週目にはタニサイトは増加し、同時にBrdU陽性細胞(タニサイトと上衣細胞下GFAP+細胞)も著明に増加した。また運動ラットのタニサイト数は、発症後1週目、3週目ともに非運動ラットより多かった。神経新生時の増殖と分化を促進するFGF-2とEGFは、運動ラットでは発症後1週目に脳脊髄液および第3脳室周囲組織中(タニサイトと上衣細胞下GFAP+細胞)で増加し、細胞増殖活性と相関した。運動ラットでは発症後も平衡機能や体重が維持され、生存率も有意に延長した。脳傷害後の自発運動によって認められたタニサイトの増加は、視床下部における生体恒常性維持機構に関与する可能性がある。
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