家庭科教育では「主体的な生活の創造」をめざしており、生活のあらゆる場面において適切な価値判断と意思決定ができる能力が必要である。またこの能力は全ての児童・生徒に必要な能力であり、特別な支援を必要とする児童・生徒も例外ではなく、障害の多様性をふまえながら育成することが期待されている。 本研究者らは、調理学習が、意思決定能力を促進することを今までの研究において明らかにしてきた。健常児については、調理学習における意思決定能力の中でも高次脳機能である、これまでに獲得した知識・技術を総合させ、最も適切な判断・決定のもとに行われている献立・調理実習時の「段取り」の能力に焦点をあて、授業実践、脳血流の側面から実証を試み、概ねその効果を検証することができた。 特別な支援を必要とする児童・生徒については、まずC県の全数調査から、食生活の指導内容において特に児童・生徒による食品の選択学習が実施されていない、教師が提示した手順カード通りに実習することが一般的な学習方法になっており、子ども自身が選択した食材や自分の考えの手順で実習する機会が非常に少ない等、これまでの指導は教師によって準備・指導・訓練されることが多いことが明らかとなった。 本研究者らは、学んだことが現在及び将来の個々の子どもの生活に活用できる力の育成を志向して、障害の状況に応じて、自らの意思で選択・決定する場面のある授業への転換、すなわち小さな意思決定を積み重ねて意思決定能力を育てる授業の提案を行った。調理実習時の意思決定プロセスの中の「適切なものを選択する」プロセスに焦点をあて、特別な支援を必要とする児童・生徒を対象とした意思決定能力育成について、授業実践及び脳機能の側面から実証することを試みた。その結果、障害児においても調理実習時に選択の場面を意図的に位置づけることにより意思決定能力を育成し、脳機能の活性化を促すことができた。
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