研究課題/領域番号 |
23500894
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
佐川 賢 日本女子大学, 家政学部, 教授 (00357112)
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研究分担者 |
芦澤 昌子 日本女子大学, 家政学部, 研究員 (40191853)
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キーワード | 視覚障害者 / 全盲 / ロービジョン / 触覚識別 / 色識別 / ATM操作性 / コントラスト |
研究概要 |
平成24年度は、(1)全盲視覚障害者に対して、触覚によるカード識別の方法及び色彩情報を伝えるための色情報の検討を行うとともに、(2)ロービジョンに対しては、ATM操作における色彩情報の有効性を検討した。 (1)全盲視覚障害者への情報提供では、具体的にクレジットカード等の識別を触覚情報で行うことを検討した。浮き上がり文字による識別では、認識するためのサイズは最低でも20mm以上というかなり大きな文字となることが判明し、そのため、カード側面に切り欠きをいれて識別する可能性を実験的に検討した。切り欠きは丸型(半円)、三角、四角(矩形)の3種類で行い、四角形が最も判別しやすいこと、また、切り込みの深さは切り込み幅に依存して深くした方が認識しやすいことが判明した。一方、全盲視覚障害者は衣服の色を自分で知りたい欲求があり、衣服の色を触覚で伝える方策も検討した。全盲視覚障害者に対して、基本色10色のイメージの違いを心理評価及び多次元尺度構成法を用いて検討した結果、全盲視覚障害者は先天盲であっても基本色相を正常者と同様に2次元の円環として把握していることが分かった。色を伝えるには色相環を用いる方法が有効であることが判明した。 (2)ロービジョンのATM操作性に関しては、前年度に引き続きATMの振り込み作業の操作性改善のためのデザインを検討した。具体的には数字のテンキーや日本語の50音キーなどの特定のキーに色を付ける場合の有効性を検討した。その結果、ロービジョン者はキーに着色することが識別に有効であること、また着色は列方向に一列おきに付ける方法が有効であることが明らかとなった。ただし、色よりもむしろ明暗のコントラストを付ける(濃い背景に薄い色の文字等)デザインが効果的であることも判明した。また照度に関しては、照明器具の写り込みを軽減するため、明る過ぎる照明は避けることが良いことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた全盲及びロービジョンの視覚障害者による2つの心理実験はほぼ予定通り完了した。実験結果では浮き上がり文字による情報提供は難しいという否定的な結果が得られたものの、その他は概ね期待した結果となった。また、視覚障害者に色を伝える方法は、日常における触覚の具体的課題として取り入れたものであるが、全盲視覚障害者に対する触覚情報利用として、実現性のある重要な課題であることが分かった。 ロービジョンのATM操作性に関しては、適切な文字サイズの検討を踏まえてさらに色の有効性が確かめられた。具体的な着色デザインに関しても有効な情報を得ることができ、順調に進展している。前年度の文字の大きさと合わせると、ロービジョン者にとって見やすく操作しやすいATM画面の基本的な設計指針を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
全盲の視覚障害者に対しては、これまでの触覚特性の実験結果を総合的に分析し、そこから、実際に日常生活で使用されているカード識別の方法や衣服の色を伝えるタグなどにおける触覚デザインの提案を行う。カードの識別のための触覚マークは、本研究の実験結果を踏まえて四角形を基本に検討し、その深さや幅などを考察して触覚的に適切なデザインとする。また、識別できるサンプル数をできるだけ多くするためのデザインを検討する。衣服の色を伝える触覚タグは、大きさや突起の高さ等を実験結果を踏まえてデザインし、それらを実現するサンプルの材質等についても検討して、実用的なデザインを提案する。 またロービジョンに対しては、これまで実験的に得られたATMタッチパネルにおける文字の大きさと色情報の提示法を分析し、分りやすく操作しやすいATMタッチパネルのデザインの提案を行う。デザインのポイントは、文字の大きさとコントラスト、さらにキーに着色する場合の色と場所等に焦点を当てる。特に、様々なATM機器に共通な横断的なデザインとして使用できるよう考案する。また、ロービジョンの視覚特性には個人差もあり大きく異なることから、多種多様な特性に適するデザインについても検討し、様々なニーズに対応可能な現実的なデザインを提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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