研究課題/領域番号 |
23500905
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
織田 博則 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (80131176)
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キーワード | 紫外線カット剤 / 省資源化 / 耐光性 / バイオマス / 地球温暖化 / 改善 |
研究概要 |
フロンによる成層圏オゾン濃度の減少は地球に到達する太陽紫外線の増大を招き、地球上の生物に多大な悪影響を及ぼすことが予測される。また、省資源化問題に関連して、産業廃棄物として多量に排泄されるバイオマスの生活環境への資材としての再利用に向けての、天然物の耐光性と耐乾性向上技術の確立、地球温暖化などの環境問題に関連して、近年の石油価格高騰による輸送機械分野での燃費向上が緊急命題になっていることから、車体の軽量化を目的としたトラック用幌、自動車トノカバー、シートカバーの塩化ビニルから軽量ポリウレタンへの変更に伴うウレタンの光黄変防止技術の開発を今年度は実施した。まず、機能性紫外線カット剤の開発はベンゾフェノン骨格(2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン)の5-位あるいは5,5’-位へベンゾトリアゾリル基を導入した新規紫外線カット材を合成し、その紫外線防護係数(UPF)を酢酸セルロースフィルムを用い検討し、天然色素の耐光性改善効果を紅花赤色素カルタミンおよびクチナシ青色素を用い検討した。その結果、新規機能性UVカット剤は優れた紫外線防護効果と天然色素の耐光性改善効果を具備していた。また、カキ紅葉のクラフト素材としての商品化を目的として、カキ紅葉の変色、退色、質感および葉の強度の低下を防ぎ、常温・乾燥・光環境下において1年間程度の品質保持を可能にする技術を、保湿性についてはグリセリンーアスコルビン酸を用い、光安定化については新規ニッケル錯体を用いて耐光性・耐乾性向上に成功し、カキ紅葉のクラフト分野への応用が可能となった。次に、軽量熱可塑性ポリウレタンの致命的な欠点である光黄変・劣化の防止には新規に開発したニッケル錯体・紫外線カット剤・自動酸化防止剤(ヒンダードアミン及びフェノール)・過酸化物分解剤混合安定化剤が優れた光黄変防止機能を有することを見出し、特許の取得を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フロンによる成層圏オゾン濃度の減少に伴う太陽紫外線の増大による皮膚障害防御の手段として、衣服の高密度化、厚地、濃色または黒色化などが試みられているが、紫外線カット機能を高くすると通気性の低下や保温性の向上を招き、汗処理が問題となる。また、光照射による衣服の劣化も問題となり、染色布の光退色は紫外線防護機能の著しい低下を招くことから事態は深刻である。紫外線カット剤などが種々開発されているが、両機能を有する紫外線カット剤は未だ見られていないことから、新規紫外線カット剤の開発を試み、ブンゾフェノンーベンゾトリアゾール縮合型新規紫外線吸収剤を合成した。新規化合物は優れた身体防護機能と耐光性改善効果を有する化合物であった。またこれら化合物の地球環境負荷をJIS L 1902に準拠し、大腸菌・黄色ブドウ球菌への抗菌活性を評価した結果、地球環境に易しい化合物であった。 地球温暖化防止に関連して、輸送機械分野での燃費向上が緊急命題になっていることから、車体の軽量化を目的としたトラック用幌、自動車トノカバー、シートカバーの塩化ビニルから軽量ポリウレタンへの変更に伴うウレタンの光黄変防止技術の開発を実施し、光黄変・劣化防止剤として、新規に開発したメタキシレンスルホン酸やメシチレンスルホン酸のニッケル錯体・ベンゾトリアゾール系紫外線カット剤・自動酸化防止剤(ヒンダードアミン及びフェノール)・過酸化物分解剤(フォスファイト)混合安定化剤をポリウレタンおよびナイロンの光黄変防止剤の1つとして提案し、特許の取得を行った。 省資源化問題に関連して、バイオマスの再生・利用を目的として、カキ紅葉のクラフト素材としての商品化を耐光性・耐乾性向上技術の確立の観点から検討した。その結果、カキ紅葉の変色、退色、質感および葉の強度の低下を常温・乾燥・光環境下において1年間程度の品質保持が可能なニッケル錯体を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
紫外線カット剤および一重項酸素脱活性化剤(可視光安定化剤:ニッケルアリールスルホン酸誘導体)の分子設計・合成を行い、モデル実験について諸物性、耐久性改善効果、地球環境負荷等基礎実験を行う。新規分子設計された紫外線カット剤、ニッケル錯体を大量合成し、これらを衣服、軽量ポリウレタン、ナイロン、カキ紅葉、柿含有ポリフェノール及び生活用品への加工適用を試みる。加工する材料は染色綿布、絹、ナイロンおよびポリエステルの4種繊維をターゲットとする。 カキポリフェノールについては、先の研究で1-ヒドロキシナフタレン-8-スルホン酸ニッケル錯体が優れた耐光性の改善効果を具備していた為、その化合物の欠点である耐洗濯性の向上を目的として、上記化合物に繊維への反応性基を導入し、染色布への反応を試みる。また、カキ紅葉の保存安定化剤の改善については、ニッケル錯体が有効な光安定化(可視光)効果を有していた為、ここでは、カキ紅葉の保湿剤であるクリセリン水溶液に可溶な紫外線カット剤の開発を試み、紫外・可視光照射に対して安定な柿紅葉の実現を目指す。 軽量ポリウレタンの光黄変・劣化防止技術については、一般の耐光性評価であるインドアー方式においては、300時間のキセノンアーク灯照射により、JIS規格グレースケル評価で4級(ΔE<2)を実現したが、トヨタ方式(アウトドア―方式)では、わずかな光黄変が見られたため、紫外線カット剤を市販品から新規合成化合物に変更し、トヨタ方式にも対応できる光黄変防止剤の開発を目指す。今年度の繰越金については、今年度の基礎知見を受け、ベンゾトリアジンートリアゾール系紫外線カット剤の合成のため、あえて次年度に研究資金を回した。今年度回した25万円と次年度の資金で、生活環境材料のエコ化と身体防護性能付与研究の完成を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
1) 地球に到達する太陽紫外線の内、肌の紅斑、サンバーンや皮膚がんを引き起こすとされている短波長紫外線UV-B領域に吸収を持つとされているベンゾトリアジン系紫外線カット剤と、色素沈着、サンタンを引き起こすとされている長波長紫外線UV-A領域に吸収を持つとされているベンゾトリアゾール系紫外線カット剤を融合させたベンゾトリアジンートリアゾール系紫外線カット剤を12種合成する。また、置換基として撥水性効果を有するフッ素原子の導入も試み、紫外線A、B波のカット機能のみならず、撥水性にも有効な衣服加工剤の創製を試みる。 2) 新規紫外線カット剤の抗菌性と皮膚一部刺激性試験は昨年度と同様な方法で、JIS Lの繊維製品の抗菌試験に基づき行う。 3) 新規志賀線カット剤及びニッケル錯体の染色布、カキ紅葉、柿ポリフェノール、軽量ポリウレタンへの適用と日光堅牢度改善効果及び身体防護性能(UPF)の検討は、各種繊維、カキ紅葉、酢酸セルロースフィルムや綿布を用いて行い、軽量ポリウレタンについては、4種の安定化剤を昨年の検討結果に従いブレンドした安定化剤を調合し、ウレタン樹脂に練り込み、キセノンアーク灯を照射し、色差計や紫外・可視分光光度計を用い、紫外線遮蔽性能や光安定化効果及び保存性について検討し、身体防護性能を有する生活用品の実現やエコ化・省資源化問題解決を目指す。
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