研究課題/領域番号 |
23500914
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
黒石 いずみ 青山学院大学, 総合文化政策学部, 教授 (70341881)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 農村住宅 / 日本近代インテリアデザイン史 / 積雪地方農村経済研究所 / 工芸指導所 / 実験住宅 |
研究概要 |
東北大震災の影響で、計画をしていた調査の対象機関が被災している例も多く、また既往研究の実績を持つ研究者も被災している例が多かった。特に、東北工業大学、仙台中央図書館、仙台工芸指導所等へのアクセスが限定されていたので、研究内容としては、計画通りの文献調査は不可能だった。しかし、山形県の旧積雪地方経済調査所の資料調査、現地調査は十分に行うことができた。また年度後半には、東北工業大学の研究者や仙台工芸指導所との情報交換、資料調査も初期的段階ではあったが行うことができた。一方で年度の初期段階に震災の影響を鑑みて、現地調査が思うように行うことができない代わりに予定では次年度以降に計画していた国際学会への参加による研究領域の国際的な広がりと現代的な意義の確認により重点を置く方針へ変更し、3つの国際学会で研究発表を行い、研究者達との交流、当該領域の歴史的相対化の視点を獲得する事が出来た。その成果として、日本の近代建築史研究では扱われてこなかった、日本の近代化に関する地理学、社会学、都市研究、美術史等の領域での近接するテーマに関する研究の蓄積を学ぶことができた。工芸と農村経済学や民芸研究の人的ネットワーク、教育学や家政学におけるインテリアの扱い等についても資料を得て、近代デザイン史研究の従来の枠組みより大きな相対的視点を得て、現在の国際的研究の展開にまで範囲を広げた理解が出来るようになった事には大きな意義があった。また今和次郎の展覧会の監修作業において、本研究課題を積極的に取り込んで考察し調査を行うことができた。もう一つの成果として挙げられるのは、東北震災後の被災地での文化財保存活動や地域の生活文化保存の活動への参加により、庶民住生活デザイン近代化の研究の、歴史研究としてだけでなく、現代的な重要性を具体的に確認する事が出来た事であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東北大震災の影響で、都市や建築、生活デザインの学問としての役割や社会的意義に関して大きな見直しが迫られる一年間であった。研究者として、従来抱いていた考え方や知識の在り方に反省と迷いが生じ、単に文献の収集と読解を継続する事が出来なくなった。そして被災地でのボランティア活動や国際的学会での研究者との交流などによる、具体的体験とより広い視点での歴史的・地域的相対化の両面での見直しをせざるを得なかった。従って、従来の研究目的として挙げていた文献資料の収集は、施設の被災や研究者へのアクセスの困難さに加えて、大幅に遅れてしまったことは否めない。しかしながら、その経験を通じて、本研究の意義や視点、方法に関して、またデザイン史研究、社会の近代化に関する研究について、現代における意義や自分らしい取り組み方を構築する手掛かりを得ることができたと感じている。その意味で「研究の目的」の本質を見直し深めることができたのであり、今後は獲得した視点の理解をさらに深めてより焦点を明確にし、作業の遅れを取り戻す必要があると認識している。山形の資料はほぼ収集できたが、仙台にある調査対象機関のいくつかは未だに閉館中であり、研究計画の変更は必要であるが、そこにとどまって研究を滞らせることは避けなくてはいけない。むしろ本年度に得た相対的・国際的視点を活かして、東京の諸機関や海外に保存されている日本近代に関する資料の収集と研究に傾注し、東北地方の機関の資料を補完する情報をあつめ、関連諸領域に蓄積された既往研究の調査も行って遅れを取り戻したい。
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今後の研究の推進方策 |
大震災の影響で学問領域の見直しはさらに進むと予想されるが、本研究の意義を確認できたので、時流に流されずに、今後の研究推進方策は、着実に従来の研究計画を実行すると同時により明確な焦点を各年度ごとに掲げて具体的成果を上げるやり方で進めて行きたいと考えている。今後は三つの方向で、計画を遂行する。まず年度後半に漸くコンタクトができた仙台工芸指導所の資料は、いまだ十分体系的な整理が行われていない上に震災の影響を受けて研究が困難な状態であることが分かったので、先行研究者とその整理と分析を行うと同時に、諸機関におけるその資料を総合的にまとめて研究の基盤資料として確定したい。それによって昨年度の活動の遅れを取り戻すだけでなく翌年度に予定している調査研究を併せて行うことが可能になる。またそれを手掛かりに東京のデザイナー達への影響関係を体系化し、次年度に予定していた関連調査もより効果的にできると予測する。また、次年度行う予定であったバウハウスやペリアンの近代日本住居デザインへの影響研究、近代建築潮流・デザイン潮流における庶民生活デザインの位置付けも、計画通りに積極的に資料収集を行い論文の執筆によって確実化していきたい。インテリア資料集成等への執筆参加で、研究公開にも努めたい。最後に、震災後の地域の日常文化・民俗文化がいかに地域の再生に重要であるかを実感したことを活かし、本研究には充分含まれていなかった生活者・デザイン受容者の立場からの研究の方法も探って行きたい。具体的には東北六県で行われた住宅改善に伴う小規模住宅計画や、共同施設計画の後追い調査を行いたい。それによってこそ、本研究で行う予定であった農村や地域生活における普及の問題の検証ができるのではないかと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究の視点の反省や作業の遅れ、資料の収集の困難さを総合的に判断した結果、次のように計画している。(1)研究の応募時に計画していた翌年度のパリのペリアン・アーカイブとバウハウスの調査のうち、前者のペリアン・アーカイブ調査は延期し、平成25年度に行う予定であった調査を長期に行う事で対応したい。その代わりに、それを上記のように仙台工芸指導所の資料の整理と体系化のための経費に使用したいと思う。また山形県での資料収集をより徹底してペリアンの日本での業績調査を確実なものにしたい。(2)従来の計画通り、都心部の諸機関や東北地方の関連機関の調査は行い、資料を収集し体系的に整理する。関連する研究者との連携も進めたい。(3)震災後の日本近代研究の相対化をきちんと押さえ、本研究の意義を確実にして行くために、国際学会において論文発表を行う事、また国内のインテリアや生活関係の雑誌、国際的ジャーナルに発表する機会を開拓する事は以前にまして積極的に行っていきたい。(4)上記のとおり、具体的な農村の庶民住宅デザイン事業や共同施設デザイン事業の、特に東北地方における後追い調査を行いたい。震災後の状況調査ともなる事が予測されるので、その分野の研究への展開も注意深く行い、拡散することなく充実した物になるよう努力したい。
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