研究課題/領域番号 |
23500914
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
黒石 いずみ 青山学院大学, 総合文化政策学部, 教授 (70341881)
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キーワード | 地域工芸の工業化 / インテリアデザイン産業史 / 積雪地方経済調査所 / バウハウス / 工芸指導所 / 生活改善 / 住まいの文化人類学 / 住習慣の転換 |
研究概要 |
本年度は、平成22年度以来行ってきた1920年代からの地域工芸工業化、インテリアデザイン産業の発達史、山形県積雪調査所における民芸研究会の業績史、東北更新会と振興会における農村副業としての工芸の産業化事業などについて、既往研究や公文書館・国会図書館、東北各県における資料館での資料収集と研究を、継続して行った。 また、昨年度にバウハウスで得た資料を研究し、追加的な文献研究、日本各地に残された関連資料の調査も行って、戦前期におけるバウハウスの日本の住宅デザイン、住政策、インテリア産業における影響の時系列・思想分類による整理を行った。 平成24年度・25年度にはフランスのペリアン資料調査やペリアンの東北調査の追跡を行う予定であったが、様々な経路でその内容等を確認し、工芸指導所関連の資料を分析、また日本で行われた何度かのペリアン展資料、山形県におけるペリアンと交流のあった人々や国内のペリアン研究者へのヒアリングを行った結果、その資料が思ったよりも得がたいこと、その内容が本研究において当初予定よりも重要ではないことが明らかになった。その一方で、日本の戦前期から戦中期、戦後直後のデザイン運動で活躍したインダストリアルデザイナー達と、建築家や住生活研究者たちとの交流がより重要な側面を持つことを見出し、その資料を探すことができた。 婦人之友を中心として、女性解放運動や家庭の民主化運動を行うための諸雑誌を読解し、生活改善協会や生活科学研究会など、戦前期から戦後にかけてのメディアにおける海外の思想やデザイン紹介を介した住空間近代化に関する言説の社会背景と傾向についても、既往研究やインタビューを基に調査を行った。 本研究の現代的意義について継続して考察しているが、一つの視点として東北大震災後の被災地における住習慣変換の調査と論考を行った。これらの研究の成果を諸学会で論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述したように、当初は東北地方の民芸と農村副業振興、近代インテリアデザインの発達との関連性をシャルロット・ペリアンなどの事例によって解き明かすことを目指していたが、現在入手できる資料の範囲では、むしろペリアン個人ではなく、彼女を招へいした工業指導所や農商務省、商工省の意図、また欧米近代デザインの紹介を行っていた建築家たちやデパート経営者の意図の影響が大きいことを見出し、単純なデザイン思想の変遷では説明できないことを改めて自覚した。そのために従来のデザイン史や建築史で説明されてきた欧米デザインの導入による日本デザインの近代化という論理を再検討する作業に取り掛かったことが大きな原因である。しかしそれによって、諸官庁の資料やバウハウスの諸資料が新たな意味を持って理解されたのは収穫だった。 研究の現代的意義を再検討し続けているが、その領域はデザイン産業やデザイン史から、地方産業振興政策、婦人問題、住政策、技術論、心理学、災害に伴う開発計画史などに拡大している。その整理に時間が多く割かれたのがもう一つの原因である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査のまとめとその資料の不足部分の追加的収集、研究の枠組みの再構築と整理など、最終年度に向けて行うべきことは多い。特に、デザイン史や生活改善史の背後にある日本近代社会・経済・行政史を、各資料館で十分に抑えておくことが必要である。 自分が従来行ってきた今和次郎研究は、今回の研究の根幹をなす部分でもあるが、デザイン史の領域で意義のあるものにするべく周辺の情報との関連性を明確にして、日本近代庶民生活空間の実態とイメージ形成において、彼や周辺の人々の貢献と限界を明らかにする。またこれまでの調査で見えてきた様々な人々の個別の調査についても、焦点を絞って具体的に、意義のあるレベルまで行っておきたい。 本研究のテーマは、第三国における生活改善事業や日本の地方・被災地における住宅開発と住文化保護においても意義がある事を説く社会学や文化人類学の知見も生かし、研究の多角的な構成の整理を行う。またその成果をデザイン史や文化人類学、建築学などの学会で発表し、次年度には研究会を開催できるよう準備を行うつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
シャルロット・ペリアンのパリにおける資料調査、東北地方における活動の追跡調査に経費を割いておらず、研究のターゲットとしてより日本の近代デザインと生活運動に重点を置いて調査を行ったため。 最終年度として、やはり当初計画通りのシャルロット・ペリアン資料をパリに探すこと、既往研究の再確認を行うことは終えておきたいので、授業のない期間に調査旅行を行う予定である。 また、新たに見出した問題点を解決するための資料調査は、あまり既往研究がない領域なので余計に経費が掛かると思われる。その部分により多くの経費を割く予定である。 研究成果の公開を、本年度ではなく次年度に行うための準備として、学会などにおける論文発表を積極的に行う予定であり、その経費も必要になると思われる。
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