研究課題/領域番号 |
23500916
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研究機関 | 和洋女子大学 |
研究代表者 |
長嶋 直子 和洋女子大学, 生活科学系, 助教 (30459599)
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キーワード | 羊毛 / 防縮加工 / 環境調和型 / 寸法変化率 / 風合い |
研究概要 |
本研究は、羊毛のケラチン質に選択的に作用すると期待される新規ケラチナーゼ酵素(ビオソークK)と天然由来樹脂のセラックおよび非塩素系酸化剤を用いて、環境に調和したウォッシャブルウールの開発を目的とする。平成24年度は実用化に向けて課題となるセラック/酵素処理羊毛の防縮性と強度の関係を中心に検討した。さらに防縮発現機構を解析するために、各処理羊毛の形態学的変化を調べ、次のような成果を得た。 まず、JIS L 1096 準拠し、未処理、セラック処理、酵素(0.5~2hr)処理およびセラック/酵素処理羊毛織物の引張強度を測定した。その結果、未処理羊毛に比べて、セラック処理では強度低下は見られなかったが、酵素処理羊毛は、処理時間が長くなるにつれて強度低下が著しくなる傾向が見られた。しかしながら、セラック前処理後に酵素処理することによって、未処理羊毛と変わらない強度が得られ、酵素処理による強度低下が抑制されることがわかった。また、セラック/酵素併用処理(2 hr)では、酵素単独処理(0.5 hr)と同程度の強度を保ち、セラック前処理による強度保持への効果は大きいことが示唆された。 そこで、各処理羊毛の表面をSEM観察した。その結果、未処理に比べて酵素処理(0.5hr)では羊毛スケールの先端が若干削れている程度であったが、酵素処理(2hr)ではスケールの損傷が著しく、部分的にはく離が認められた。一方、セラック単独処理羊毛ではスケール間の接着が見られ、さらにセラック/酵素処理(0.5hr)を行ったところ、スケールの先端は滑らかになった。また、セラック/酵素処理(2hr)では酵素処理(2hr)に比べスケールの損傷やはく離は抑制された。このような結果から、セラックがクチクル細胞接合域(CMC)に沈着して、酵素のCMCから内部への拡散が抑制され、防縮性の発現と同時に強度保持が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セラック/酵素併用処理羊毛織物による防縮性発現機構を明らかにすることができた。また、セラック/酵素併用処理羊毛織物の寸法変化率については検討途中ではあるが、実用上十分な強度が得られる条件を確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の成果をもとに、セラック/酵素処理羊毛の消費科学的性能について詳細に検討する。とくにJIS L 0217およびL 1096の試験方法等に準拠して寸法変化率を求め、基礎的データを集積する。さらに風合いについても検討する。 研究課題申請時は最終年度(平成25年度)において、オゾンを使用する計画であったが、酸化力が強い一方、廃オゾン処理に懸念が残るため、オゾンの代替としてフッ素の次に酸化力が強く、人体への影響も問題のない非塩素系酸化剤モノ過硫酸水素カリウム(PMS)を使用する。また、セラックを溶解するためには大量の有機溶剤が必要なため、廃液処理の問題があるが、セラックの代替として、PMSによる前処理を行い、続く酵素処理によってセラック/酵素処理と同程度あるいはそれ以上に強度低下が生じず防縮性が十分得られる条件を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
「収支状況報告書」の「次年度使用額」に対し、当該研究費が生じた状況としては、当初予定していた外部機関の解放機器の使用を割愛でき、支出が抑えられたためである。 平成25年度は、まず、セラック/酵素処理羊毛の消費科学的性能を調べるため、消耗品として、試料(羊毛織物 JIS L 0803規定添付白布等)、試薬(メタノール、酢酸ナトリウム、界面活性剤等)、ガラス器具(マイヤー等)を購入する。 また、PMS/酵素ケラチナーゼ処理羊毛の最適な処理条件を検討するために、均一で迅速なPMS処理が可能な恒温振とう機を購入する。なお、本機器は酵素の失活の際にも活用でき、実験の効率を高めることが可能である。 さらに、防縮発現機構を解析するため、処理後の試料について形態学的観察および物性変化の測定を行う予定であり、その際の測定機器使用料として研究費を使用する。 繊維関連の学会において開催される研究発表会に出席し、研究の成果を公表する予定であり、その旅費として使用する。
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