研究課題/領域番号 |
23500928
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
五島 淑子 山口大学, 教育学部, 教授 (60144903)
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キーワード | 食料 / 産物 / GIS / 江戸時代 / 地誌 / 山口県 / 「防長風土注進案」 |
研究概要 |
本研究は、今日多くの目的で利用されている地理情報システム(GIS)を食文化研究へ活用しようとするものである。資料として、天保期長州地方の地誌である「防長風土注進案」を使用してGISを作成し、それを活用し、江戸時代末から今日にいたる山口県の食生活の変遷とともに、日本における食生活の変遷を考察し、現在の食生活の課題と改善のための提言を行うことを目的としている。 平成24年度は、「防長風土注進案GIS」化に向けてデータのチェックを行った。「防長風土注進案」(21巻別冊1冊)(昭和37年山口県文書館編集、山口県立山口図書館発行、昭和58年マツノ書店から覆刻)に記載された物産、産業に関する記載を、平成23年度にエクセル形式で入力した。入力したデータは膨大であり、産物名の記載、物産の項目、単位等について、「防長風土注進案」の刊本にあたり、修正作業を行った。また、宰判(地域)による記述の違いがある、宰判ごとにより呼び名が違う、同じ名前であって宰判で違う、その単位がまちまちであるなど、「防長風土注進案GIS」に使用できるデータに加工するためには、かなりの修正が必要である。データチェックはGISの完成度に大きく関わるため、重要な作業であり、平成24年度はその作業の途中である。 GISのソフトは、ArcGIS(ESRI社)を使用する。「防長風土注進案」に記載された地域は、4支藩領を除いた地域で、山口県全域の3分の2にあたる。GIS化に向けてデータの準備を進めている。 「防長風土注進案」に記載された、産物・食料をもとに、食品目録の作成することを予定しているので、記載された産物・食料に関する情報収集、資料収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度当初の計画では、平成23年度に入力したデータチェックを実施し、「防長風土注進案GIS」の初歩段階の作成をめざした。平成24年度は「防長風土注進案GIS」のためのデータチェックを行っており、その作業の途中である。「防長風土注進案GIS」の初歩段階の作成はまだできていないが、予定された範囲内の遅れである。 「防長風土注進案」データは、膨大であり(現在、データ約30,000行、品目はのべ4,000項目)、かつ江戸時代の産物のため、記載が複雑で難解である。今後、宰判ごとに、野菜や魚の呼び名が違う、読めない産物がある、不明の産物がある、単位が統一されていないなど検討すべき点が多くある。ひとまずGISが完成しても、それをもとにデータ修正を繰り返す必要があるため、繰り返し産物データの修正を行い、より完成したものをめざす。 一方で、GIS化を行うソフトのArcGISを使用するために、資料データの取り扱い、GIS化における技術的な問題点、今後の方向性、データの統合修正などGIS化するための検討を行った。 平成24年度は、「防長風土注進案」の食品目録に向けて、入力した物産・産業の項目、特に食文化関連について、資料収集、情報収集を行った。
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今後の研究の推進方策 |
データチェックに時間がかかることは予期していたが、データが膨大かつ複雑なため、時間を要している。今後、同一食品をひとつにまとめていく作業や、単位の扱いなど、検討する課題は多い。さらに、「防長風土注進案GIS」作成のためのデータチェックの繰り返しを行い、平成25年度は、代表的な食料や物産のGISを作成する。 平成23年度の研究打ち合わせで、「防長風土注進案」の食品目録を作成が重要であると分かった。「注進案食品目録」では、「防長風土注進案」に記載された食料(食品)、物産等について、「防長風土注進案GIS」を活用して、その食料(食品)の生産量、生産分布、生産分布の特徴を明らかにするとともに、その食品の利用、他の食品との比較などを行い、辞書的活用ができることを目標としている。食品の調理や伝統食について、山口県内を中心に調査を行うとともに、伝統的な食品について日本国内において情報収集を行う。さらに食文化関連図書の購入、文献資料の収集を行い、文献的な調査を実施する。 「防長風土注進案」の食料生産・産物の特徴を明らかにするため、先行研究で行われている明治初期飛騨地方の地誌である「斐太後風土記」で作成されたGISとの比較を行う。「斐太後風土記」と「防長風土注進案」を検討することで、日本における幕末から明治にかけてのいわゆる伝統的な食生活を、食料生産の面から明らかにする。 「防長風土注進案GIS」を活用し、天保期長州地方の食料生産の地域性、明治初期飛騨地方との比較、山口県における食生活の変遷、日本の食生活の変遷を考察し、現在の食生活の問題点と改善のための提言を行うことをめざす。 さらに、GISを活用した食文化研究という点から、「防長風土注進案」以外の食文化研究へのGISの応用についても検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じたのは、入力した産物・食料の検討に時間がかかり、謝金を使って効率よくという状況になかったこと、予定していた研究打ち合わせを次年度にしたためである。 平成25年度は、「防長風土注進案GIS」のうち、代表的な産物に関するGISの完成をめざすとともに、GISを活用し、天保期防長地方の食料生産の地域性を明らかにすることを目標としている。「防長風土注進案」は江戸時代天保期の記録であり、産物名、単位など記載は統一されていない。平成24年度に引き続き、「防長風土注進案」の刊本と照合しながら、データチェックを行う。さらに、データについて、同一食品であるか、単位の扱いなどの検討を加え、データの修正を行う作業を繰り返し、地図を作成し、「防長風土注進案」GISの完成をめざす作業を行う(謝金:研究補助)。 「斐太後風土記」によるGIS化の実績のある研究者と、研究打ち合わせを行い、GIS化の方法の検討や、地誌を扱う上での問題の解決方法を検討し、「防長風土注進案GIS」の完成をめざす(旅費:研究打ち合わせ)。地誌をGIS化することで、他分野との利用が可能になるために、GISの利用に関する情報収集を行う(旅費 情報収集)。 平成23年度に検討した結果、「防長風土注進案GIS」を行うとともに、「注進案食品目録」の作成が必要であることが分かった。「注進案食品目録」に向けて作業を行うため、引き続き、食文化・食生活関連の情報収集、資料収集を行う。山口県内外において、食料生産、食品の食べ方、調理についてなど、調査を行う(旅費 資料収集、情報収集、研究打ち合わせ)。 食文化・GIS関連の図書を購入(食文化・GIS関連図書)する。消耗品として、事務用品、コンピュータ関連消耗品等を購入する(消耗品)。
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