研究課題/領域番号 |
23500940
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研究機関 | 新潟リハビリテーション大学 |
研究代表者 |
山村 千絵 新潟リハビリテーション大学, リハビリテーション研究科, 教授 (30184708)
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キーワード | ソフトスチーム加工 / 嚥下調整食 |
研究概要 |
平成24年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1、対象野菜の官能検査: パネルには、対象野菜として選定した人参を試食してもらい、食べやすさや飲み込みやすさに関する官能検査を実施した。また、その他の野菜(かぼちゃやさつまいも等)およびペーストについても、試食後の感想聴取を行った。官能検査は2点嗜好法とし、試料は平成23年度の研究で設定された条件(温度、時間)でソフトスチーム加工を行った人参、および中火でソフトスチーム加工の条件と同じ時間をかけて茹でた人参(85℃90分処理と100℃90分処理のものでの比較)とし、約20℃に調整したものを供した。パネルには、摂食・嚥下機能に問題がなく普通食を食べている若年健常者32人(平均年齢18歳、17~25歳)、高齢健常者33人(平均年齢77歳、69~91歳)の2集団を設定して検査を行った。なお、人参は大きいものを用いると、処理条件が同じでも物性が基準外となるため、長さ10.5~14.5cm、頭部の直径4~6cmのものを用いた。おいしさ、味の強さ、甘さ、見た目、軟らかさ、まとまりやすさ、食べやすさ、飲み込みやすさなどの項目で、おおむねソフトスチーム加工人参の方が良い評価が得られた。 2、官能検査パネルに対する生理学的検査: 上記官能検査に参加したパネルの中から、承諾の得られた一部を対象に、デンタルプレスケールオクルーザー709を用いた咬合力の測定、かみかみセンサーを用いた試料の咀嚼回数の測定、JMS舌圧測定器を用いた舌圧の測定を実施した。 3、栄養分析: 糖度計を用いて糖度を測定したところ、100℃で茹でた人参は平均6.9 Brix (%)、ソフトスチーム加工した人参は平均9.9 Brix (%)と、後者の方が甘味は強く、官能検査の結果と一致した。一方、ビタミン類や ORACの測定値は、栄養素によっては、100℃で茹でた方が高いものもあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度は、下記の理由でおおむね計画通りに進んでいると考えられる。 平成23年度は実施計画に基づいて「試料の作成と物性検査」を実施した。すなわち、検査対象野菜を選定し、各種温度、時間でソフトスチーム加工し、物性検査用試料を準備した。次に、準備した試料に嚥下調整食として必要な物性が備わっているかを調べるため、硬さ、付着性、凝集性等についてクリープメーターを用いて検査し解析を行った。物性検査の結果は、嚥下調整食の基準と照らし合わせながら、試料作成方法にフィードバックして試作改良を続けた。このようにして、平成23年度の目的であった、「めざす嚥下調整食のための最適な調整条件(処理温度、時間)の決定」を、計画通りに行うことができた。また、当初予定していなかった、食材の栄養分析も実施した。 平成24年度も実施計画に基づいて「対象野菜の官能検査」「官能検査パネルに対する生理学的検査」を実施し、さらに「栄養分析」も追加実施した。官能検査については、若年者のみならず実際に嚥下調整食を利用する年代である高齢者のうち、摂食・嚥下機能に問題がない幅広い年代の高齢者(69~91歳)に協力いただいてデータを採取した。若年者と味覚や嗜好性の異なる高齢者にも好評であったことから、平成25年度の介護現場での試食へスムーズに導入できることが期待される。また、平成23年度中に準備していた「オクルーザー709」や「かみかみセンサー」および平成24年度に追加購入した「舌圧測定器」を使用して各種生理学的検査を実施した。また、今後、野菜の種類を増やしていく際の試作及び保存のために準備した「低温スチーミング電気鍋」と「真空パック器」を用い、人参以外の野菜の検討も行った。 以上のように、当該年度の研究目的はおおむね達成され、次年度の研究に向けての準備も順調に行われていると点検評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、当初の計画通りに進めていく予定である。そして、平成25年度が研究の最終年度となるため、研究成果の発表に向けてまとめにとりかかる。 まず、平成24年度に採取したデータのうち、各種生理学的検査の結果と官能検査の結果とを対応させた解析が未実施であるので、これを実施する。さらに、栄養分析の結果、一部の栄養素においては、ソフトスチーム加工により予想以上の損失が見られたので、ソフトスチーム処理加工の手順について、再度、専門家の指導を仰ぎ確認する予定にしている。 平成25年度は、介護現場での試食・アンケート調査を、病院入院患者や施設入居者の同意を得て実施する。対象者は、ミキサー食より前(普通食に近い)の段階の食形態を利用している軽度の咀嚼・嚥下障害者とする。対象者に対し、少量の試食ならびに咀嚼・嚥下のしやすさ等についてのアンケート調査を実施する。そして、介護者や病院・施設の職員からも、食事の準備や介助の立場としての評価を得る。さらに、実用化へ向けた準備として、最終的に有効な食材の種類や1パックの適正量等について検討し、パンフレットを作成する。また、実用化へ向けての課題を抽出し解決する。 なお、現在、我が国には、嚥下調整食についての統一規格がなく複数の基準が併存し、かつ各施設でさまざまの段階が作成・利用されている。このため、学会等で統一基準の作成に向けて準備を進めているところである。本研究においても、この動向を見守りつつ、当面はいくつか併存する基準を参考に研究を進めていくこととした。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に配分された研究費のうち、平成25年度へ繰り越した額や前倒し使用した額は、ともに0円であり、当初の予定通り計画的に執行されている。平成25年度は平成23~24年度に得られた結果を基にして食材を調整し、その食材を用いて計画通りに、介護現場での試食・アンケート調査を実施し、実用化へ向けた準備を進めていく。 食材の調整は、高根フロンティアクラブに整備されているソフトスチーム機を使用して行うため、その他の経費として計上してある委託費を充当する。なお、加工前の原野菜類も高根フロンティアクラブより提供していただくため、試料用食品の費用もこれに含む。平成24年度は、官能検査や生理学的検査など、健常成人を対象とした実験を行った際に、謝礼を支払う予定にしていたが、当初予定していた謝金ではなく、謝品としたため、謝金額がゼロとなり物品費が増加する形となった。平成25年度も同様の形とすると、物品費が増加し謝金が減少する可能性がある。また、本研究遂行に必要な大型の設備備品類は、すべて購入を完了しているので、平成25年度の購入予定はない。 平成25年度は研究計画最後の年であり、成果発表(学会発表、報告書、論文等)のためにも費用を使用する予定である。
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