研究課題/領域番号 |
23500951
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
南 道子 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (70272432)
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キーワード | DNAマイクロアレイ / 食物繊維 / 遺伝子発現 / 生活習慣病 / 腸内細菌叢 |
研究概要 |
ラットに食物繊維を飼料中10%投与した餌で飼育し、24年度は肝臓のDNAマイクロアレイを行った。その結果、有意な結果が得られたので、本年度は食物が最初に通過する臓器である、小腸の上皮細胞でのDNAマイクロアレイを行った。RNAの調整は東京学芸大学で行ったが、その後、cDNA作成とcRNAの作成、ラットのアレイチップにかける作業や、検出に関わる一連の作業は、神奈川科学アカデミー健康・アンチエイジングプロジェクト内において行った。腸内細菌は食事内容によって変動するので、その腸内細菌の影響を小腸の上皮細胞が受けていれば、マイクロアレイの結果に反映すると考えたが、食物繊維の多い群と少ない群での群間の有意差はなかった。 また、前年度から保管してある血液のサンプルを用いて、プラスミノーゲンアクチベーターイン匕ビター1(PAI-1)の量についてELISAのKitを用いて検討した。これは、疫学調査の結果、半年間野菜を多く摂った群でPAI-1のタンパク質が少なくなったという報告をもとに検討おこなった。しかし、Kitの説明書に記載されている血清量では測定できなかった。そこで、血清の量を3倍にして検討したが、測定限界以下であった。そこで、サンプル中のPAI-1タンパク質を固定する時間を増やして、検討したところ測定が可能になった。しかし、溶血しているサンプルでは測定値が大きくなり過ぎ、測定条件を揃える事ができなかった。再度、溶血条件が揃ったサンプルで、比較したが、有意差はみられなかった。 PAI-1タンパク質は血管内皮、肝臓、脂肪細胞で作られ、血液中に分泌されるが、その血液での測定ができなかったので、RT-PCRにより、mRNA量の比較を行った。taqmanプライマーを用いて計測した結果、肝臓では顕著な差はみられなかったが、脂肪細胞で有意な結果が得られ、再現性をみているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、24年度以降にはペクチン食でラットを飼育して検討する事、 PAI-1量の測定を行う事、TGF-βとの解析をする事、腸内細菌叢の解析を行う事などがあげられているが、動物飼育を除いて、おおむね達成されている。PAI-1については研究実績の概要で示したように、ELISAおよび、RTーPCRを用いて、タンパク質及びmRNAレベルでの量の比較を行った。前年度はKitの説明書の通りに行い、結果が得られなかったが、数度の検討を重ねて、結果が得られている。TGF-βやSmad3など発ガンに関するタンパク分子との相互作用については、昨年度の生化学会の大会で他の研究機関がその関係を否定しているので、その検討については一時保留とした。 また、腸内細菌叢の検討であるが、これも遂行しており、食物内容によって左右される腸内細菌は、食物繊維の量によっても影響を受ける事がしめされた。 しかしながら、ペクチンを食物繊維として、ラットの飼育を行っておらず、最終年度に持ち越しになってしまったのでなるべく早い時期に飼育して、解析したい。解析については、マイクロアレイを行うか、RT-PCRで様々な遺伝子について検討するかは、共同研究者と相談の上決定したい。食物繊維の違いにより、肝臓のマイクロアレイの結果に差が出るかどうかは大変興味のある事柄である。また、マイクロアレイを行わなくても、生活習慣病に関わる因子について、PCR分析を行い検討する。 分析手法については、血液を採取して、PAI-1量の測定を試みる事をおこなう。疫学調査の結果は野菜や果物を多く摂取させた群での検討であるので、食物繊維の種類については検討がなされいていない。しかし、動物実験の利点は、食物繊維の種類を同定できることで、今回の実験で同様の結果が得られたらペクチンの有効性を示す事となり、大変有意義であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は、研究の最終年度であるので、研究計画に記載したペクチンを多く含んだ飼料で飼育したラットについて、解析を行う。ペクチンは、そのメトキシル基の量が7%以上の高メトキシルペクチンと、それ以下の低メトキシルペクチンに分かれる。高メトキシルペクチンは、エステル化度が47%以上のものであり、それが80%以上になると、ラットの食欲を低下させ、体重減少が起こる事が報告されている。また、分子量が10万以上でミネラルの吸収に影響を及ぼす報告もあり、ラットの栄養状態に影響を及ぼすので、それは除外しなくてはならない。そこで、飼料に添加するペクチンの検討を慎重に行わなくてはならない。入手できるペクチンとしては、食品添加物で販売されているものが安価であるが、品質に保証がない。試薬で売られているペクチンについても数種類あるので、ペクチンのエステル化度やメトキシル基の量等の情報を入手し、検討を行う。 また、ラットの週令についても、成長期のラットは本課題である、生活習慣病の観点から望ましくなく、12週令以降を検討している。12週令はほぼ成人と同等であると考えられる。飼育期間については、23年度と同様に予備飼育1週間、本飼育1週間として行う。食物繊維の量であるが、ペクチンに関してはここ20年間の論文では10%を飼料に添加した報告はなく、最大で8%である。そこで、本来ならば、10%を検討するべきであるが、量についても今後、共同研究者との話し合いで決定したい。群構成については2%、5%、と多い群の3群比較を行い。通常の5%に対して、それぞれの群がどのような結果を示すのか、検討を行いたい。 臓器は肝臓、脂肪細胞、盲腸内容物と血清を採取し、生活習慣病に関与する因子の生化学的な解析、及び分子生物学的な解析に供したい。さらに共同研究者とは定期的に打ち合わせの機会をもち、論文作成の検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、研究計画の総仕上げの年である。ラットは1群6~7匹とし、3群飼育する。12週令以降であると、1匹約、3000円であるので、54000円である。ラットの餌は1群約10万円するので30万であり、ELISAのKitでの検討をPAI-1以外にインスリンで行い、それぞれ81000円、34000円である。いずれも再現性を見るため2-3枚必要である。アレイのチップは1枚8万でラットの匹数必要であり、それにかけるプローブの作成キットは約60万円である。 また、RTーPCRを行うための蛍光標識したプライマーが1種類で約3万円であるが、内部標準としてβアクチンを用いるので、そのプライマーも必要で計6万になる。 ラットの肝臓や血液の脂質分析を外部の機関に委託する。腸内細菌は蛍光プライマーを購入して、PCRと制限酵素処理を行うが、電気泳動での分離分析は外部の機関に依頼する。2つのサンプル分析に約10万円必要である。その他、生化学試薬、分子生物学試薬を合わせて30万計上する予定である。また、学会参加費として国内2回を予定している。 最終的に実験費用が支給額を超えないよう、共同研究者と常に連絡をとり、研究を遂行していきたい。
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