食物繊維は、栄養的な観点からはあまり研究対象として顧みられなかったが、腸内細菌叢の研究が進むにつれて、その生体内での役割が明らかになってきた。また、遺伝子工学の発展や、分析機器の誕生で食物繊維のもつ新たな生理作用を研究する条件が整った。 われわれは、食物繊維の中で、セルロースを取り上げて研究を行った。まず、研究対象として、便秘等に悩む高齢者を想定して40週令のラットを選び、生育中に与えられていたセルロース5%の餌をコントロールとして、それよりも少ない量と多い量の餌を作成し、一週間飼育した。ラットの血液、糞、肝臓、脂肪細胞などを採取し、昨年度までに血中のコレステロール、中性脂肪など脂質の分析を行った。肝臓からは、RNAを抽出し、30000個の遺伝子を搭載したラットアレイチップにハイブリダイズして、コントロール食にくらべ発現が増加する遺伝子、減少する遺伝子を抽出し、現在詳細な研究中である。糞はTRFLP法で分析し統計解析したところ、クラスターを形成し、食物繊維の量により腸内細菌叢を変化させる事が証明された。 今年度は、論文作成を視野にいれて、アディポカインであるPAI-1、レプチン、TNF-α、IL-6について、脂肪細胞のmRNAを抽出して、RT-PCRを用いて解析した。その結果、PAI-1、TNF-αでは、食物繊維量が多い群は少ない群に比べ、産生されるmRNAの量が減る事がわかっった。レプチンではその差は小さかった。また、論文作成のためにデータを補完する目的で、肝臓中の、コレステロースや中性脂肪の分析を行った結果、総コレステロールの結果に有意差が得られ、食物繊維の量で、血中コレステロールの量がコントロールされる事がわかった。 ペクチン食で飼育したラットの血液分析で、レプチンについてはセルロースと同様な傾向を示したが、PAI-1は反対の結果となり、詳細な検討が必要と考えられた。
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