研究課題/領域番号 |
23500960
|
研究機関 | 青森県立保健大学 |
研究代表者 |
佐藤 伸 青森県立保健大学, 健康科学部, 教授 (40310099)
|
研究分担者 |
向井 友花 青森県立保健大学, 健康科学部, 助教 (60331211)
藏崎 正明 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 助教 (80161727)
|
キーワード | 胎生期低栄養 / 肥満 / 植物ポリフェノール / AMP活性化プロテインキナーゼ / エピジェネティクス |
研究概要 |
低栄養の子宮内環境で発育した児は、成長後に脂質・糖代謝異常などを高率に発症することがわかってきた。一方、カテキン類などの植物ポリフェノールは肥満抑制に働く。しかし、胎児期低栄養に起因する児の肥満における植物ポリフェノールの生理的役割に関する知見はほとんどない。AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は細胞内のエネルギー代謝調節に重要な役割を果たす。たとえば、脂質代謝においてAMPKのリン酸化によりアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)の活性が抑制され、いわゆる「脂肪燃焼」を促す。今年度は、胎児期低栄養に曝された児の脂質代謝におけるカテキン類の生理的役割を明らかにするために、妊娠期に低蛋白餌を摂取した母ラットの授乳期に茶ポリフェノール(GTE)を与え、仔ラットの肝臓中のAMPKのリン酸化やタンパク質発現量に及ぼすGTEの影響を検討した。 妊娠ラットを4群に分け、妊娠・授乳期を通じて20%カゼイン食群(CC群)、妊娠期8% カゼイン食+授乳期20% カゼイン食群(LPC群)、妊娠期8%カゼイン食+授乳期0.12%あるいは0.24%GTEを添加した20% カゼイン食群(LPL群及びLPH群)を設けた。離乳時(3週齢)に、出生仔を解剖した。残りの仔ラットは30週齢まで標準動物飼料を摂取させた。肝中のAMPK及びACCのリン酸化やタンパク質量をウェスタンブロット法で検討した。 3週齢の雌性仔ラット肝では、LPL 、LPH 群ともにAMPK及びACCのリン酸化タンパク質量が増加した。雄性仔ラットではこのような変化は認められなかった。一方、30週齢ではいずれの群のAMPK及びACCには有意な差は見られなかった。以上から、授乳期に投与するGTEは発育初期の雌性仔ラット肝のAMPKを活性化し、脂質代謝の鍵のひとつであるAMPK-ACCシグナル伝達経路に影響を及ぼすことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の主な目的は、胎児期低栄養に起因する児の肥満における茶ポリフェノールの生理調節機能を明らかにすることであった。低蛋白餌摂取母ラットから産まれた仔ラットに茶ポリフェノールを摂取させ、仔ラットの肝臓中のエネルギー代謝に関連するAMP-activated protein kinase (AMPK)や脂肪酸合成に関与するアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)の活性や発現に及ぼす影響を及ぼすかを検討した。その結果、授乳期に投与するGTEは発育初期の雌性仔ラット肝のAMPKを活性化し、脂質代謝のキーのひとつであるAMPK-ACCシグナル伝達経路に影響を及ぼすことを明らかにした。一方、脂肪酸合成系酵素の遺伝子発現を制御する脂質合成転写因子-1c(SREBP-1c)の発現については、調べることはできなかったので、今後の課題となる。 さらに、肥満は、高血圧や慢性腎臓病の発症と深く関係があるので、上述の実験において、仔ラットの腎臓における茶ポリフェノールの影響も調べた。その結果、授乳期に摂取する茶ポリフェノールは、成長後の仔ラットの腎臓中AMPK、糖代謝に関連するAktおよびタンパク質合成に関与するmammalian target of rapamycin (mTOR) のリン酸化やタンパク質の発現を減少させた。今後は、この生理的意義を検討する予定である。以上のことから、今年度の研究内容は概ね順調に進んでいると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
DNAの塩基シトシンなどのメチル化は、エピジェネティクスに深く関与している。DNAのメチル化に重要な役割を果たすDNAメチル基転移酵素(DNMT)の発現が肥満では増加するという。一方、カテキンはDNMT活性を阻害するといわれる。しかし、胎児期低栄養に起因する肥満では授乳期に摂取するカテキンが、出生児のDNMTにどのような影響を及ぼすかは未だ不明である。そこで、前年度に行った実験、すなわち、妊娠期に低蛋白餌を摂取した母ラットの授乳期に茶ポリフェノール(GTE)を与えた実験の試料を用いて、臓器中のDNMTの発現やDNAのメチル化を認識するメチル化DNA結合タンパク質の発現に及ぼすGTEの影響をリアルタイムPCR法やウェスタンブロット法などにより検討する。これにより、胎児期低栄養に曝された仔ラットの授乳期に摂取するGTEがDNMTを介する転写制御にどのような影響を及ぼすかを評価する。 上述の実験に加え、次のような実験も行う。レスベラトロール(REV)などの植物ポリフェノールは、細胞内のエネルギー代謝の「センサー」といわれるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化するアクチベーターとして報告がなされている。また、ヒストン脱アセチル化酵素であるサーチュイン(sirt1)は、REVにより活性化し、肥満などに予防的に働き、抗老化作用を有する。そこで、成長後の仔ラットの糖や脂質代謝に及ぼすREVの生理的役割を明らかにするために、胎児期低栄養に曝された仔ラットの授乳期にREVを摂取させ、sirt1やAMPKの発現量を調べ、成長後の仔ラットの糖・脂質代謝に及ぼすREVの影響を評価する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|