研究課題/領域番号 |
23500967
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
渡辺 敏明 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (30091846)
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研究分担者 |
福井 徹 兵庫県立大学, 環境人間学部, 研究員 (50425443)
榎原 周平 兵庫県立大学, 環境人間学部, 助教 (10372856)
澤村 弘美 兵庫県立大学, 環境人間学部, 助手 (30555371)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ビオチン / HPLC / 尿 / 異化代謝物 / 栄養状態 |
研究概要 |
本研究の目的は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を利用して、汎用性が高く、前処理が容易で、より感度の高いビオチンおよびビオチン異化代謝物の同時測定法を確立する。また血液および尿のビオチンおよびビオチン異化代謝物の基準値の設定およびビオチンの体内状態および栄養状態を把握する。 本年度においては、ビオチンおよびビオチン異化代謝物の標準物質を用いて、まず定量法の確立および検出感度について検討した。またビオチン欠乏の早期指標である3-ヒドロキシイソ吉草酸(3-HIA)のHPLCによる同時測定の条件についても検討した。ビオチン、ビオチンスルホキシド、ビオチンスルホン、ビスノルビオチン、3-HIAの標準水溶液をDMEQ-Hydrazideにて蛍光標識し、HPLCによる測定条件の検討を行った。この結果、HPLCはYMC-Pack FAカラムにて水/アセトニトリル/メタノール溶液と80%メタノールのグラジュエント法で、流速1.0mL、Ex360nm、Em435nmの蛍光検出の測定条件を確定した。ビオチンスルホンは試薬ピークと重なったが、30分までに他の化合物は分離し、検出感度は20pgであった。 生体サンプルとしては、ビオチン投与前後の尿を利用して、尿の前処理はアビジン樹脂とセパビーズSP850を用いて比較検討した。 尿においては、セパビーズ法で夾雑ピークが若干残るが、ビオチンスルホン以外の化合物であるビオチン、ビオチンスルホキシド、ビスノルビオチンおよび3-HIAが検出できた。ビオチン欠乏症が疑われた患者尿のセパビーズ法による処理で、ビオチン投与前ではビオチンとその異化代謝物は検出できなかったが、3-HIAの増加は顕著であった。このようなことから、ビオチン欠乏状態を含め生体内のビオチン状態の把握には、尿のセパビーズ法による前処理とHPLCによる測定が有用であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビオチンおよびビオチン異化生成物質については、個々の標準物質の反応条件やHPLCの測定条件の検討は終了していたが、同時測定をするためにいくつかの問題が出てきた。これまでのHPLCによるビオチン測定は、UVや蛍光による検出の場合、ビオチンに対してHPLCによる分離前や分離後に標識物質を結合させており、ビオチンへの標識反応は有機溶媒中で行われていた。しかしビオチンは一般的な有機溶媒には不溶でありために、高い感度が得られなかった。このため本研究では、水溶液中で標識可能な試薬DMEQ-hydrazidを用いてビオチンおよびビオチン異化生成物質を標識した。ここの標識についての条件が異なっているために、ビオチンおよびビオチン異化生成物質を複数以上含まれている場合の適切な標識条件の設定が困難であった。 尿中の含まれているビオチンおよびビオチン異化生成物質は一般に遊離型で存在している。このため微生物学的定量法で測定する場合にはそのまま分析が可能である。しかしながら、水溶性の蛍光物質で標識する場合には、ビオチンおよびビオチン異化生成物質以外の夾雑物質に対しても結合していることが考えられ、尿をそのまま標識し、検出するためには十分な分離や感度を得ることができなかった。 このようなことから、尿の前処理として夾雑物を除去するための条件が十分に確立できず、生体試料の分析が予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本測定法は、汎用機できるHPLCを利用して、ビオチンおよびその異化代謝物質も同時に測定することができるために、医療、食品栄養分野、医薬品、畜産などについて多くの利用が可能となる。今後食品や血清について検討を行って行く予定である。1.尿中および血清ビオチンおよびビオチン異化生成物についての測定法を確立する。生体試料については、標準物質と違ってタンパク質などの夾雑物が多量に含まれている、尿中サンプルについては、一般に遊離型として存在しているが、血清サンプルでは、一部のビオチンは血清タンパク質と結合して存在している。このため測定法の精度を上げるために夾雑物の除去法を確立する。2.食品および食事を試料とした測定法を確立する。尿と血清で確立した前処理方法を応用し、食品および食事中の存在するビオチンおよびビオチン異化生成物の測定法を検討し、確立する。食品サンプルとしては、食品成分表に新規に収載された500品目を対象として、微生物学的定量法および今回確立したHPLC法でビオチン含量を測定し、得られたデータについて比較検討する。3.健常人の栄養状態について調べる。女子学生を対象にして、サンプルとして、食事、尿と血清を一緒に採取し、ビオチンおよびビオチン異化生成物を同時に分析する。得られたデータについて、尿中ビオチン濃度と血清ビオチン濃度との関連について解析する。また健常成人における血清中のビオチンおよびビオチン異化生成物の基準域について検討する。さらにビオチンの体内動態についても解析して、ビオチン栄養状態を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.尿中のビオチンおよびビオチン異化生成物の測定法を確立する。しかしながら、尿中には多くの夾雑物が存在するため、夾雑物を除去しなければならない。そこで、ビオチンと強い親和性を持つアビジンを用いて、アフィニティー精製による尿からビオチンの生成を試みる。2.血清中のビオチンおよびビオチン異化生成物の測定法を確立する。血清中には多量のタンパク質が含まれている。また血清中のビオチンは、尿とは異なっており、大半はタンパク質と結合した状態で存在している。従来法の従って、血清の硫酸加水分解処理により、結合型ビオチンを遊離ビオチンに変えてから測定することなどによって、血清の前処理方法について検討すする。 血清サンプルについては、女子学生を対象として、尿と一緒に採取する。得られたデータについては、尿中ビオチン濃度と血清ビオチン濃度との関連について調べ、ビオチン栄養状態についての検討を行う。 なお、今年度末までに購入を予定していた消耗品の納品が遅れたために8,373円が残った。この分については来年度、分析費用として使用する予定である。
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