研究課題/領域番号 |
23500984
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂井 信之 東北大学, 文学研究科, 准教授 (90369728)
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研究分担者 |
中村 真 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (50231478)
飯塚 由美 島根県立大学短期大学部, 短期大学部保育学科, 准教授 (50222823)
長谷川 智子 大正大学, 人間学部, 教授 (40277786)
山中 祥子 池坊短期大学, 文化芸術学科, 准教授 (30580021)
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キーワード | 共食 / ポジティブ感情 / 楽しさ / コミュニケーション / 発達 |
研究概要 |
今年度は本研究の目的のうち、「1.食育基本法で指摘されている現代の食生活の問題点の一つである「孤食」について、行動科学的 なエビデンスを蓄積する。」についての実験的な研究を中心におこなった。実験/調査研究については、研究代表者である坂井と研究分担者である中村と長谷川が中心となり、共食に関わる実験を実施した 。 坂井は、同じお菓子を食べるときに、独りで食べる状況と知らない人と一緒に食べる状況、親しい友人と一緒に食べる状況で、感じられたおいしさおよび1ヶ月後のおいしさの記憶などを比較する実験をおこなった。結果からは、「親しい友人と一緒に食べるとおいしい」という仮説は支持されなかったが、一緒に食べた友人が、「そのお菓子はおいしくなかった」と言明したときには、おいしさを低く評定した。一方で、一緒に食べた友人が「そのお菓子はおいしかった」と言明したときには、そのときのおいしさに変化は見られなかったが、1ヶ月後の記憶はよりポジティブに形成される傾向にあることが明らかとなった。 また、中村は昼食を食べるときに、よく知らないインタビュワーの同席する中で、中のよい友人と一緒に食べたときの感情の変化は、インタビュワーと一対一で食べたときの感情の変化に比べてよりポジティブな感情を報告し、ネガティブな感情を抑制する傾向にあることを見いだした。 長谷川は、小学生の児童を対象に、共食と孤食で食物のおいしさや食事の満足感を実験により比較した。その結果、共食時には孤食時に比べて、食事がより楽しかったと表現することが多くなることがわかった。 これらの結果から、共食は単に食物をおいしく感じさせるのではなく、食事を楽しく感じさせ、ポジティブな感情を喚起させる効果があることが示唆された。また、この効果は即効性のものではなく、遅発性のものであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで共食について、実験的にアプローチした先行研究がなかったため、実験についてはすべて手探りで始めるという状況であった。そのため、実験研究はすべて仮説に対してネガティブな結果であったが、次年度以降の実験の遂行に参考となる知見および実験手続き手法については、かなりの収穫があった。一つは、実験の設定についての問題である。今年度は実験室内で、ビデオ撮影を受けながら、知らない人と一緒に食べるという設定で実験をおこなった。このことが、実験参加者には非常に負担となったようである。「便所飯」という言葉が一時期流行したように、食べられる姿を他人にみられるのは恥ずかしいという感情が、特に若い女性に多くみられるため、次年度以降の実験としては、設定を改良しなければならないだろう。幸いにも、今年度最後の研究打合会において、実験社会心理学に詳しい研究分担者の山中から、実験の手続きに関する意見がでたので、次年度以降の具体的な改良点がみつかった。 社会調査に関しては、ほとんど進展がみられなかった。しかしながら、共食に関する社会調査についても、先行研究は体系的なものはほとんどなく、また用いられる用語も統一されていなかった。そのため、先行する研究の展望をおこない、知識を共有できたことは大きな前進であったといえる。次年度はこの知見を利用して、広く調査をおこなっていくメドがついた。
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今後の研究の推進方策 |
1.共食しているときの相手のどのような振る舞い(行動、表情、視線、発言など)がおいしさに影響を与えるかということを実験室 内やフィールド(学生食堂や自宅等)で共食させることにより調べる。この実験では、実験室内で実験参加者と共食者の2名に同じ食 物を摂取させ、摂取しているときの表情をビデオ撮影し、同時にその食物に対する評定を記録する。共食する相手は実験者が設定した 条件で、それぞれの食物に対して決められた反応を示すようにトレーニングしておく。実験の条件としては、快表情反応(甘味を摂取 したときにみられるような微笑みに近い表情)のときと不快表情反応(苦味や酸味を摂取したときにみられるような嫌悪的な表情)の とき、コントロール条件(特に顕著な反応をせずに黙々と食べる)を設定する。 2.共食に関する質問票の作成と調査の実施をおこなう。加えて、過去の食事の記憶に関するディープインタビュー調査をおこなう。 この過去の食事の思い出し調査においては、食卓を囲む場面(=共食)と孤食の場面の思い出し内容の深さ、感情価などを比較する。 加えて、実験参加者に何種類かの食事の写真を提示し、それらの食事から連想する出来事や感情価などを自由に回答してもらい、その 回答の内容を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備・備品:次年度は設備・備品の購入はない。 消耗品費:本研究では実験室にて様々な条件で、また様々なデータを得るために、多くの食品を用いた実験を設定している。そのため 、実験用食品の購入は必須である。また、調査や実験の遂行のために、文具およびパソコンソフトの購入も必要となる。 旅費:東京、宇都宮ならびに神戸、島根などで実施する研究の進行に関する打ち合わせをおこなうための旅費を予算化した。また、本研究成果を発表するにあたって、Pangborn Sensory Science Symposiumや日本心理学会など国内外の学会参加に係る費用を計上している。 謝金:主に、実験や調査を遂行するにあたり、必要な学生アルバイト(調査結果の入力、実験実施時の補助など)および実験/調査協 力者(1実験あたり50人程度、1調査あたり100人程度)への謝金/謝礼を計上した。
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