研究課題/領域番号 |
23500998
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
鎌田 洋一 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 室長 (20152837)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 食中毒 / 寄生虫 / 住肉胞子虫 / Sarcocystis / 毒素 / 下痢原性 |
研究概要 |
馬肉より住肉胞子虫の1種Sarcocystis fayeriのシストを摘出し、そのタンパク質画分を分析した。ウサギへの下痢および致死毒性を示す画分を分析したところ、分子量15 KDaのタンパク質が原因と考えられた。同タンパク質の部分アミノ酸配列を決定した。アミノ酸を規定するコドンを利用し、degenerate primerを用いてのPCR法を適応し、その遺伝子を増幅させ、クローニングベクターに挿入、塩基配列を決定した。同毒性タンパク質の遺伝子は358 bpからなり、118個のアミノ酸で構成されていた。塩基配列および推定アミノ酸配列の相同性をパブリックデータベースから調べたところ、細胞内アクチンの機能を調節するタンパク質と相同性がみられた。 毒性のある15 KDaタンパク質遺伝子を、組換えタンパク質作製用pHAT10ベクターに挿入した。同ベクターで大腸菌BL21株を形質転換した。LB培地に形質転換大腸菌を摂取し培養、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを添加し、組換えタンパク質の発現を誘導させた。大腸菌体を回収後、BagBustorによる、菌体の破壊とタンパク質の抽出を行った。組換え体にはヒスチジン10残基が付与されるよう設計してあるベクターで、抽出タンパク質群から、タグを持つ組換えタンパク質をTALONカラムクロマトグラフィーで精製した。ヒスチジンタグをエンテロキナーゼ処理とゲルろ過で取り除いた。1 Lの培養液から10 mgの組換え毒性15K Daタンパク質が精製された。組換え15 KDaタンパク質をウサギ腸管ループ内に投与したところ、ループ内に液体貯留が誘導され、同タンパク質が、腸管毒性を持つ毒素タンパク質であることが証明された。組換え15 KDaタンパク質は凍結融解に不安定で、今後同タンパク質の詳細な毒性メカニズム解析には改良が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原因物質は虫体を構成するタンパク質であると想定し、毒性タンパク質の精製、アミノ酸配列の解析、遺伝子のクローニング、塩基配列の決定が行えた。また、毒性タンパク質の組換え体の作製にも成功し、その毒性が証明できたので、計画通りの達成度と判断している。学会発表および発表に基づく総説を公表した。研究成果の公表の部分は、計画より進行している。
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今後の研究の推進方策 |
組換え毒性タンパク質の機能を確認する。機能が確認された後は、対象の15 KDa毒性タンパク質の名称を決定する。論文発表を行い、寄生虫毒素性食中毒の概念を広く知らしめる。実験としては、応用および基礎の2方面からのアプローチを計画している。すなわち、応用研究においては、馬肉中に存在するSarcocystis fayeriの危害性を制御するための実験を行う。馬肉が馬刺として生食されることを重視し、加熱以外の方法を勘案している。すなわち馬肉の冷凍処理で、冷凍温度および冷凍保持時間を種々変動させ、S. fayeriシストが混入している馬肉を処理し、シストおよび毒性タンパク質の毒性を検証、S. fayeriが混入している馬肉においても、安全に喫食できる処理方法を策定する。基礎研究においては、組換えタンパク質の安定性を向上させるため、別種のベクターを用いる等、作製方法を検討する。同タンパク質に対して抗体を作製して免疫学的手法を用いることにより、S. fayeri以外の種の住肉胞子虫に同様な毒性タンパク質の存在が示唆されるか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は、消耗品費、旅費、謝金、別刷りや英文校閲にかかる費用として支出する。
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