研究課題/領域番号 |
23501008
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
植松 晴子 (小松 晴子) 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (70225572)
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キーワード | 協同学習型授業 / 物理概念 |
研究概要 |
1 協同学習形式の授業(チュートリアル)の改善 平成23,24年度に,メリーランド大学のレディッシュ教授らが開発した教材を用いてチュートリアル方式の授業を試行した結果に基づき,授業方法の改善を行った.具体的には,①日米カリキュラムの違いに配慮し,グループ学習に入る直前の講義において前回授業時の学習内容の確認に重点をおき,グループ学習での学習者の不安を軽減すること②日米の文化的背景の違いを考慮して,設問や表現をより日本人にあったものに修正すること③グループ学習の最後に振り返り項目を設け,学習内容の定着を図るとともに教員が個々の学生の理解度や疑問を把握することなどである.授業前後に実施するFCIのゲインは,チュートリアル導入前の0.17から0.30に向上した.また,物理概念の獲得には,教材の充実に加えて,授業観・学習観に働きかける授業中のファシリテーションを充実させることが重要であることが明らかになった. 2 学習効果における問題 協同学習によって一時克服したかにみえた素朴概念が,定期試験の解答時に再度現れることが見られた.この理由として,学習者が過去の演習問題と同様の文脈ととらえたとき,入試対策として親しんだパターン・マッチングによる解法を適用してしまうことが考えられ,日本固有の問題として今後の取り組むべき課題である. 3 個別聞き取り調査,授業ビデオ,振り返り項目の分析 個別聞き取り調査と授業中の協同学習を撮影したビデオ内の発話分析及び振り返り項目の記述内容の分析から,認知活動が物理概念形成に有効であるか否かを探った.発話分析については,認知的活動が行われていることは確認できたが,概念形成との関連については引き続きデータ収集が必要である.振り返り項目の記述の深さとFCIの該当項目のゲインについては相関が見られ,学習効果があったといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23,24年度に実施したチュートリアル方式の授業によって明らかになった課題を改善し,学習者が物理概念を獲得することに対するこの方式の有効性を明らかにした.アメリカで開発されたこの授業方法について,教材を修正し,単一授業内で講義と協同学習の双方を実施し,両者の位置づけを再検討することにより,文化やカリキュラムの異なる日本の大学に適用することを可能にした.また,学習者が物理概念を効果的に獲得するためには,協同学習中のファシリテーションが鍵であり,ファシリテーターが学習者主体の明確な意識を共有することが重要であることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までに明らかになった課題に基づき,教材や授業方法を改善してチュートリアル方式の確立を目指す.振り返り項目においては,理解度に自信をもつ学習者が,新たに学んだことがないとして,十分記述しない例が見られた.認知心理学的配慮により問の表現を修正し,学習者の理解度によらず学習内容を確認し定着できるように図る. 教員やTAが学習者主体の意識を明確に共有するように,授業研究やTAトレーニングを強化し,協同学習式授業におけるファシリテーションを充実させる. 獲得した物理概念が,過去の演習問題の経験から素朴概念に戻ることに関して,聞き取り調査を行ってし思考過程をたどり,正しい概念獲得につながる教材開発を考える.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度までに、アメリカで開発された「物理概念獲得に有効とされる相互作用型授業」を元に日本向け教材を開発すべく授業を試行してきたところ,正しい物理概念を獲得させるには,取り扱う教材の充実に加えて,授業観・学習観に働きかける授業中のファシリテーションを充実させる方が重要であることが明らかになったため,当初計画を変更してファシリテーションの充実を図ることとしたが,そのために必要なTAを十分確保できなかった. 授業中のファシリテーションを有効に行うために十分な数のTAを確保したうえで,TAの教育を強化する方法を検討し,TAの意欲と責任感を喚起する教育方法を確立する.次年度の研究費はTAの謝金に充てる.
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