研究課題/領域番号 |
23501034
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研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
小寺 隆幸 京都橘大学, 人間発達学部, 教授 (80460682)
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研究分担者 |
浪川 幸彦 椙山女学園大学, 教育学部, 教授 (20022676)
小田切 忠人 琉球大学, 教育学部, 教授 (00112441)
井上 正允 佐賀大学, 文化教育学部, 教授 (00404111)
伊禮 三之 福井大学, 教育地域科学部, 教授 (00456435)
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キーワード | 数学的リテラシー / PISA |
研究概要 |
2012年度には3回の会議を行った。7月福井大の会議では数学リテラシーについての検討を深めるとともに、附属小での研究授業を実施し、子どもの思考過程の分析からリテラシーのあり方についての考察を深めた。 9月には東京・和光中でPISAの問題に基づく統計教育の授業研究を実施した。PISAの問題は評価問題としてではなく、授業の中での話し合いを通してリテラシーを育むためにこそ活用しうることが明確になった。また統計教育委員会の渡辺美智子氏をお招き、統計リテラシー教育についての国際的な動向をお聞きし討議した。さらにPISA2012のFrameworkの翻訳を全員で検討し、従来と比べて相違点を掘り下げた。またPISAの背後にある考え方を巡って、福岡大学の柴田勝征氏を交え議論した。 3月京都大での会議では京大の松下佳代氏から近年の新しい能力観について報告していただいた。またフィンランドの数学教育と理科教育の研究者を招き、フィンランド教育の現状とPISAの影響についてお聞きした。 この3回の会議を通して、PISAのリテラシー論の問題点が明らかになり、日本の数学教育が何を批判的に受容するのかについて論点が明確になってきた。 また研究メンバーのうち小寺、浪川、小田切の3名が7月に韓国で開催された数学教育国際会議に参加し、この研究の中間的な成果を発表するとともに(浪川:Mathematical Literacy in Recent Education in Japanなど)、世界の数学教育でリテラシー論がどう議論されているかを把握することができた。さらにデンマークのNiss博士とお会いし、デンマーク視察について協議した。その結果、申請時点での計画を変更し、2013年度9月に視察を実施することを決めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請書の「研究の目的」ではPISAの数学的リテラシー論を日本の数学教育が批判的に摂取するために、次の4点を研究課題に据えた。①PISAの数学的リテラシーの調査問題自体を検討する。②PISAの中心的理論家・Niss氏と対話し論点を掘り下げる。③PISAと親和的とされるデンマークの数学教育を検討する。④日本の数学教育がPISAから批判的に摂取すべきものは何かを明らかにする。 ①については2011年度と12年度でかなり精緻に分析し、PISAの構造的問題も明らかになってきた。②についてはNiss論文を検討したが、訪問自体を延期したため遅れている。③もデンマークの数学教育についての検討を始めたが、実際に現地で授業を視察し教師と交流する中で深めたい。④については、現実の文脈の中で数学を駆使し市民としてのより良い判断ができる力を育むことを数学教育に位置づけることが明確となった。そして現在最も深刻な問題となっている原発事故と放射線による被曝の問題に数学教育がどのような役割を果たすべきかを考え、具体的な教材や授業化について検討を始めた。その一端は日本数学教育学会での小寺発表「原発事故と数学的リテラシー」にまとめた。また浪川は数学の立場から数学的リテラシーを考え数学教育に生かすために、論考「数学,学ばるべきもの -数学という学問から見た数学を学ぶ意義-」を日本数学教育学会誌94巻11号で発表した。他の研究分担者もそれぞれの学会などでこの間の成果を発表している。 3.11大震災と福島原発事故は数学教育にも大きな課題を突き付けている。ポストフクシマという新たな事態の中での市民としての数学的リテラシーとは何か、それをどう育むかということはそれ自体が大きなテーマである。そして私たちの研究はそのことを避けて通れない。それが当初の予定に比べやや遅れている理由である。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は9月にデンマークを訪問し、Niss氏と会いPISA調査の意義と課題、そしてPISAのFrameworkの根幹に位置するNiss氏のコンピテンシーのとらえ方を巡って話し合う。またデンマークの初等、中等、高等各段階の数学の授業を視察し、フィンランドとは異なるデンマークの教育の理念や方法について調べる。 それをふまえながら、日本の数学教育がPISAから学ぶべきものについてまとめていく。それはシチズンシップの教育という大きな枠組みの中で数学教育をとらえ直すことである。それはポストフクシマ段階でどのような数学的リテラシーが求められるのかを考えることともつながる。研究の成果として具体的な教材を開発し、可能であれば授業を行い、その可能性を検証したい。 そして研究成果をまとめ、論文として公表し、各学会で発表することで、開かれた議論にしていく。当初想定していたように、Niss氏を招請し講演会を実施して多くの人とともに考える場を作ることは予算が尽き不可能になったが、様々な形で発信していきたい。特に12月にはPISA2012の結果が発表になる予定であり、それに対してもすばやく対応し、PISAの意義と課題を提起していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
12年度の繰り越しと13年度の配分額合わせて2174566円の研究費がある。その使用のうち最も大きなものはデンマーク視察旅費である。参加者7名を予定しており、旅費と宿泊費合計で最低でも一人20万円、計140万円。 現地での通訳、コーディネイト費として20万円。 残りは日本での会議2回分の交通費、宿泊費、会議費、講師謝金にあてる。
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