研究課題/領域番号 |
23501056
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
片平 克弘 筑波大学, 人間系, 准教授 (70214327)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 科学教育カリキュラム / 教授デザイン / 概念形成 / 概念変容 |
研究概要 |
自然科学に関する「正しい知識を学校教育の中でどう教えるか」,「新たな科学知識の獲得を促進する学習環境をどう作り上げるか」は,理科教授の根源的なテーマであり,不易の課題である。近年の世界的な科学教育の動向に目を向けると,どの国でも科学の振興に呼応して科学教授の方策に関する様々な研究成果が報告されている。特に,科学教授の方法的な改善では,「科学教育で扱うべき最新の知識内容」の取り扱いとともに,学習者の「意思や動機」の研究成果や,学習環境の「社会文化的な要因」に関する研究成果を反映した実践研究が行われている。この意思や動機などの心理学的観点は,科学知識の獲得を「合理的過程」だと表明してきた初期研究では省みられなかった観点である。 本研究では,研究者と教育現場とを結ぶ循環的なWebシステムを構築し,その成果を共有しながら,心理学や社会学を踏まえた新たな科学知識の教授法の提案,及び臨床的評価を行ってきた。概念形成支援Webシステムに関しては,研究者と実践家が循環的に活用し,改良を図ってきた。 平成23年度は,特に「粒子概念」の形成や概念変容の特徴を長期的な調査で追跡し,そこから得られた質的結果を踏まえた教授法・評価法の提案を行った。具体的には,「いつ・どこで・なにを・どのように実践した」かなどの教授法に関する情報や評価データをデータベース化し, 活用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度を通して,児童・生徒の科学概念形成のために,情意面や社会文化的要因を重視した新たな概念形成支援Webシステムを構築したが、それを研究者と実践家が循環的に相互活用するまでには至らなかった。特に、「意思や動機」,「社会文化的文脈」を踏まえた科学概念形成のための実践支援システムの特徴をどこに出すかに関して、明確な方向性を見いだすことができず,この点が、当初の計画どおり進展しなかった大きな要因となっている。 平成23年度は、研究対象の中心に「粒子概念」の形成や概念変容を据え,その特徴の吟味,及び教授法・評価法の提案を行った。その結果,「エネルギー」概念の取り扱いについては,次年度にまわすことにした。さらに,本研究は東日本大震災後の研究のため、エネルギー分野の内容を実践現場で扱うことが難しかったことも,研究の遅延に影響しているのは否めない事実である。 反面,粒子概念の教材の開発に際しては,教材,教授・学習,評価などの情報提供以外に,概念形成に係わる情意面や社会的側面に力点を置いて開発できたことは本年度の大きな研究成果である。また,生徒の「粒子概念」の形成や概念変容の特徴を単元の中で長期間に渡って調査し,先行研究以上に,教授法データや評価データが記録できたことは成果である。
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今後の研究の推進方策 |
まず,「意思や動機」,「社会文化的文脈」を踏まえた科学概念形成のための実践支援Webシステムの改良作業を継続して行う。 次に,昨年度から行ってきた種々の科学概念の概念変容研究の成果の吟味,及び継続的な科学概念の教授実践を行うにあたって,子どもへの支援体制や事後サポート体制を充実させる。特に,各種科学概念の概念変容を子どもに引き起こすための教授法や評価法を再吟味し,授業デザインや実践授業の方法を改善する。そのためには,とりわけ小学校教員と中学校教員である研究協力者との意見交換を積極的に行い,単元の中で使用予定の教材についてさらなる改良を図る。また,今年度から研究を行う予定の高等学校に関しては,研究協力者が1人しか確保できていない学校の場合,新学習指導要領の領域と内容を踏まえた上で新たな人材を確保する。さらに,科学概念の概念変容を支援する循環型Webシステムに関しては本格的な実施運用を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,児童・生徒の「エネルギー概念」の形成や概念変容の特徴を吟味し,それに基づいた教授法や評価法を提案する予定である。小学校2校(北本市立西小学校、深谷市立深谷小学校)と中学校2校(さいたま市立上大久保中学校,さいたま市立西原中学校)で,授業実践や評価データの収集を行う予定なので,これらの作業のために,iPadを4校分購入する予定にしている。機器の必要数は授業内容や学校種によって異なるので,授業を担当する教員や参与観察者と事前に相談し決定する。 さらに,収集した授業映像を編集するために,高速な処理が可能なデスクトップビデオシステム(ウィンドウズマシン)と学習評価に関する種々のデータ(数値データ、静止画像データ)を保存するためのレイド型ハードディスク(データの誤消去を防止するために分散してデータを書き込めるハードディスク。大容量のもの。)を購入する予定である。 また,調査研究の中では,概念学習における社会文化的文脈の影響を質問紙調査で探るために,調査問題の印刷費を計上する。さらに,よりリアルな社会文化的な環境のもとで児童・生徒の科学概念形成や変化の実態を探るために,校外学習や野外実習などへの同行も必要となるので,研究成果を発表するための学会への出張旅費以外に,臨床的な調査データ収集のための旅費も計上する予定である。
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