研究課題/領域番号 |
23501058
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野原 佳代子 東京工業大学, 留学生センター, 准教授 (90327312)
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研究分担者 |
中山 実 東京工業大学, 社会理工学研究科, 教授 (40221460)
仲矢 史雄 大阪教育大学, 科学教育センター, 准教授 (90401611)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 理科教育 / 占領下 / 科学技術リテラシー / 翻訳 |
研究概要 |
本研究のプレインタビューとして、理科教育史の第一人者であり仮説社社長でもある板倉聖宣博士に、戦後の理科教育(1945~60年)における小学校での指導法と教科書との関連性について聞き取り調査を実施した。たとえば、当時の新教科書の策定と学習内容の変更は、必ずしも子供の学習到達度に大きな影響はなかったとの回答が得られている。戦後の理科教育改革を分析するための資料収集として、戦後の教科書を保管している大阪教育大学附属図書館学術情報課を訪問し、図書館員にインタビューを行った。その結果、図書館としても貴重な教科書については脱酸処理後、デジタル化を進めており、本研究でも利用可能であることを確認した。また、この時期の教科書では挿絵に工夫を凝らすなど、特徴的な編集がなされていることから、画像に関する分析も必要であることを話し合った。さらに、この時期の教科書が米国訪問団の影響を受けていることから調べた結果、シカゴ大学の教育使節団などの当時の拠点教育研究機関の関与が考えられることを抽出した。さらに大阪教育大学図書館が所蔵する教科書には、見本として用意された版と全国の小学校に配布、使用された版の2種類の両方が収蔵されていることが明らかになった。本研究においては、デジタル化の作業の着手対象として、全国配布版の6年生用を画像化することとし、デジタルアーカイブとして実用的かつ微細情報も検討しうる解像度を検討した。その結果600dpiが最適であり、教科書の紙質や印刷技術水準も細部から判断でき、データの転送も比較的良好であった。これらのデータから、文字認識を行うとともに、PDFファイルの非表示埋め込み情報として、各ページのイラストにカテゴリ(動物:犬、人物:男子等)を文字情報として分類保存を行っている。これにより教科書中に、どのようなイラストが何種類、何回出現しているか、抽出可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の計画(戦後の理科教育改革の実態を調査し資料を保存する)に従って、大阪教育大学付属図書館を訪問して理科教科書・ワークブック等の関連文書を確保し、適切な記録・保存としてのデジタル化も完了した。また、アメリカという異文化と異質な科学観に基づく部分の多い改革後の教科書を用いて、どのような意識また方法で実際の授業が展開されていたのか、またそれに対し生徒や父兄、教員、翻訳者等の関係者やマスコミを含む周辺の人々はどのようにその変化を受け止めていたのか等、保管されていた文書から考えられる当時の状況についてヒアリングを行った。以上、この研究の大きな柱である二つの研究調査が開始され滞りなく進行した結果から、本研究は現段階において「おおむね順調に進展している」と判断できる。ただし、予定されていた調査主張が震災による大学業務への影響もあり、すべてを実施できなかった面もある。平成24年度(今年度)よりこの点を取り戻すべく、研究を推進していく。
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今後の研究の推進方策 |
GHQと教育委員会等の間の交渉の記録については、GHQが記録した資料の一部はマイクロフィルム化され国会図書館等にアーカイブされている。しかし教科書案の原稿や翻訳冊子(英語版)は十分な保存、管理がなされていない。国内だけでなくワシントンDCの公文書管理局や英国国立公文書館での収集が必要である。また1970年に日本に返還された沖縄において執筆者や関係者家族のもとに残された翻訳教科書の書翰や原稿等は散逸の危機にある。残された資料をできるだけ確保し適切な記録・保存を行なう。平成23年度は予定されていた調査主張が震災による大学業務への影響もあり、すべてを実施できなかった面がある。平成24年度(今年度)よりこの点を取り戻すべく、研究を推進していく。理科の教科書の内容も、GHQから行政の主導権が日本に戻る前とそれ以降とで大きく変容している。GHQ関係者は、アメリカのどの教科書や科学書を基軸として日本の理科の教科書の編纂を指導していったのか。たとえば当時GHQにとって文化アドバイザーとして役割の大きかったドナルド・キーン氏などへのインタビューが予定されている。アメリカという異文化と異質な科学観に基づく部分の多い改革後の教科書を用いて、どのように実際の授業が展開され、どのように子どもたちの科学リテラシーが培われ、父兄や教員など当時の人々はそれをどのように受け止めていたのかインタビュー調査を実施し彼らの実体験を明らかにした上で記録する。たとえば琉球大附属小学校校長の小田切忠人氏、大田昌秀元沖縄県知事、『日本理科教育史』(第一法規出版 1968)の著者である板倉聖宣氏等にヒアリングを行い、同時に当時の資料を収集する。当時20代で教授した教員でも現時点で80歳代であり、存命中に可能なかぎり早急に調査をおこない、同時に70代である当時の児童、生徒であった人たちからも証言を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記方策の計画に基づき、次年度研究費は主に以下の調査において使用する予定である。1. アメリカ合衆国, イリノイ大学への文献・資料調査およびインタビューのための旅費2. 沖縄おもに琉球大学への文献・資料調査のための旅費3. 収集したデータの共有と一般公開のためのデータベース・サイト作成費4. 理科教科書と科学リテラシー教育分野の文献費
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