研究課題/領域番号 |
23501062
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三浦 裕一 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30175608)
|
研究分担者 |
中村 泰之 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (70273208)
小西 哲郎 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30211238)
古澤 彰浩 名古屋大学, 教養教育院, 講師 (20362212)
齋藤 芳子 名古屋大学, 高等教育研究センター, 助教 (90344077)
千代 勝実 山形大学, 基盤教育院, 准教授 (80324391)
安田 淳一郎 名城大学, 理工学部, 助教 (00402446)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 物理学教育 / 物理学の教材開発 / 能動的教育 / 授業改善 |
研究概要 |
学生が把握し難い基礎的な物理的概念や法則を理解させるため、力学と電磁気学の分野を中心に、講義中に行う系統的な実験を開発した。物理的概念を学生に主体的に理解させるには「問題意識」を喚起することが重要であり、そのため講義中の限られた時間の中で、合理的に物理法則や物理的概念の発見を追体験できるよう、シリーズで行う実験を開発した。 実験をシリーズで行う目的は、その時点までに得られた実験結果を元に、次の段階の結果を学生に論理的に推論させ、物理的概念や物理法則の発見を「追体験」させることにある。そのため、適切なヒントを順次与えて学生の推論を論理的に導くため、段階的に進める系統的な実験を開発した。学生自ら「手」を動かし、実感を持って考えさせた。また、実験では可能な限り電子測定器は避け、「測定器は自分の目」とすることにより、実感を持たせるよう工夫した。そのため、単純で明瞭に結果が得られる実験を開発した。 講義中に行うため、学生自らが机上で行うことができる小型で簡便な一連の実験教材を開発した。安全にも充分に配慮して設計した。また、教育効果を調査する際には、学生の個人情報と人権の保護にも充分に配慮した。実験開発の参考にするため、他の大学の物理教育の現状を視察した。また近隣の大学から物理学担当の講師を招いてワークショップを開催し、互いの工夫を演示した上で、それぞれの教育効果について意見交換を行った。得られた結果は、物理学会の講演やワークショップで発表し、一部を論文として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「角運動量、慣性モーメント、アンペールの法則」など、学生が把握し難い物理的概念や法則を理解させるため、力学と電磁気学の分野を中心に、講義中に行う系統的な実験を複数開発し試行した。限られた時間の中で、合理的に物理法則や物理的概念の発見を追体験できるよう、シリーズで行う実験を開発した。シリーズで行う実験において、その時点までに得られた実験結果を元に、次の段階の結果を学生に論理的に推論させ、物理的概念や物理法則の発見を「追体験」できるよう工夫した。 具体的な実験例としては、異なる形状の回転体を斜面で転がし、その転がり速度から慣性モーメントの概念を定性的に理解させた。さらに、質量分布を変えた回転体に同じ回転力「力のモーメント」を与え、回転速度を比較することにより、慣性モーメントの定式化を定量的に理解させた。電磁気学の実験例として、電磁誘導による反磁性電流を理解させるため、異なる基盤の上で磁石を移動させ、それぞれの基盤から受ける「電気的な摩擦」の大小を比較した。基盤として、アルミ板の他、スリットの入ったアルミ板や、ステンレス板、絶縁体の板を用いた。その結果から、磁石の移動により誘導される反磁性電流の大きさと、流れる方向を直感的に理解させた。 実験では可能な限り電子測定器は避け、「測定器は自分の目」とすることにより、実感を持たせるよう工夫した。学生に各段階で結果を予想させ、次に自ら実験して結果を確認させ、順次記録させる。それを集計して学生の理解の進展を追跡調査し、一連の実験の教育効果を評価した。 実験開発の参考にするため、他の大学の物理教育の現状を視察し、また近隣の大学から物理学教育の担当の講師を招いてワークショップを開催し、意見交換を行った。得られた結果は、物理学会の講演やWEBサイトで公開した。さらに、一部を論文として発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に開発された一連の実験を、実際の講義で使用することにより、学生の反応を調査し、教育効果を評価する。実験教材の開発と教育効果の追跡調査は表裏一体の関係であり、実験の効果的な導入方法も開発する。その調査結果を元に、専門分野の異なる研究分担者の間で議論して教育効果を検討し、さらに改善する。 また、関連する事例を国際的な範囲で収集し、我々の結果と比較検討する。一連の実験を行いながら、学生の理解が進む過程を確認することにより、更に効果的な実験に改良する。もし、概念理解のゴールに向かって性急に結論を急いだ実験を行うと、その段階で、多くの学生が脱落する。この状況はリアルタイムで理解の進展を追跡することにより解明できる。学生が脱落する実験には、論理の飛躍が存在する。そこで、理解を助ける「新たな実験」を挿入することで、段階的に推論を導く。そして、最終的に全ての学生がスムーズに理解を進めるよう改善する。 前年度に開発し講義中に試行した一連の実験から得られた結果を分析し、さらに効果的な実験になるよう改善していく。すでに試行した実験では、学生が正しい実験結果を予想した場合でも、必ずしも正しいメカニズムから推論していない場合があった。例えば、電磁誘導による「電気的な摩擦」の大きさを比較する実験において、学生は「機械的な摩擦」の方に着目して推論したと思われる結果が得られた。この場合、「機械的な摩擦」の条件を同じにそろえるか、機械的摩擦を無視できるよう工夫して、比較できるように改善する必要があった。 このように、昨年度の反省も踏まえ、学生の誤解を避けて明確な結果が得られるよう、さらにシリーズ実験を開発、改良していく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究の性質上、市販の機器を購入するだけでは研究目的を達成できない。独自に教育効果の高い教材を開発するため、主に消耗品、材料費、及び外注する加工費に使用する。各種のセンサーなど、市販の機器は実験の要素として購入し、現象を直感的に理解させるよう工夫する。 前年度からの繰越額は、新たな実験を開発するための材料費や加工費に使用する。講義内容を理解させるための開発であるため、教科書の典型的な例題を可視化し、実感を持って理解させる実験を重視して開発する。また、演習問題に相当する実験を開発し、学生自らが実験した後、計算して結果を確認できるように企画する。この方法で物理法則を現実に適用する方法を身に付けさせる。実験には、市販の器材のうち利用できるものを購入し、必要に応じて改良を加えて利用する。 また、情報収集のため、文献調査や市販の教材の購入に使用する。さらに、他の大学の物理教育を視察するための旅費や、学会発表のための旅費、及び 他の大学から講師を招いてワークショップを開催する費用に使用する。 得られた結果を外部に広く発信するため、WEBサイトを充実させる費用や、論文投稿費、開発した実験をまとめたハンドブックの印刷費と、その配布に使用する。
|