研究課題/領域番号 |
23501062
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三浦 裕一 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30175608)
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研究分担者 |
中村 泰之 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (70273208)
小西 哲郎 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30211238)
古澤 彰浩 名古屋大学, 教養教育院, 講師 (20362212)
齋藤 芳子 名古屋大学, 高等教育研究センター, 助教 (90344077)
千代 勝実 山形大学, 基盤教育院, 教授 (80324391)
安田 淳一郎 岐阜大学, 教養教育推進センター, 准教授 (00402446)
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キーワード | 物理教育 / 物理学の教材開発 / 能動的教育 / 授業改善 |
研究概要 |
大学初年次の物理学講義において、通常の授業だけでは学生が把握しにくい基本的な物理的概念や法則を理解させるため、力学と電磁気学の分野を中心に授業中に行う演示実験を開発している。物理的概念を学生に主体的に理解させるためには、先ず「問題意識」を喚起することが重要である。そこで、最初に学生の予想と異なる現象を実験により提示した。 そして、予想が外れた原因を考察させ、仮説を立てさせた。次に、その仮説から導かれる結果を実験で検証した。 この一連の実験は、学生に現実感を持たせること、及び科学的に推論する姿勢を養うことが 目的である。そして、実験の各段階で学生に予想した根拠をシートに記述させた。これは学生に物理法則の発見を「追体験」させる試みであったが、教員の意図から外れた推論も見受けられた。この調査により、系統的演示実験をさらに改善する手がかりが得られた。 最近の画像技術の進歩のため、学生がアニメと、物理法則によるシミュレーション画像を混同する恐れが出てきた。そこで、実験で現象を見せて、それを推論の起点とすることが重要であった。一部は事前に撮影してスロー再生で提示したが、学生に現実感を持たせるために、可能な限り授業で実演するように努めた。実演するには、準備する負担の軽減や、明確な結果が得られることが重要である。そのほか、時間の制限や安全性にも配慮して実験を開発している。 開発した系統的実験、及びそれに対する学生の反応について物理学会で発表するとともに、近隣大学から物理教育の担当者を講師として招いてワークショップを開催し、物理教育の改善について意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
系統的実験の開発と改善は順調に進んでいる。 24年度の実験開発の主な成果を挙げると、「剛体振り子の周期」を単振り子と比較して「慣性モーメント」の理解を深める実験がある。調査により、学生は「単振り子」と「剛体振り子」の論理的関係がつかめず、「別の現象」として記憶している傾向が分かった。その原因として、教科書の別の章で扱うためと思われる。もちろん講義では論理関係を説明しているが、定着していなかった。受験勉強の影響で、論理的関係を考えるよりも、個別の問題としてパターン化して記憶する傾向が感じられる。これでは未知の問題に挑戦できない。そこで、振り子の駆動力は「単振り子」と等しいが、「慣性モーメント」が4倍の「剛体振り子」を作り、同時に振って見せた。周期が2倍になることが容易に見て分かる。これは、演習問題の可視化とも言える。学生はその場で計算して実験結果を説明できることになり、物理法則を現実的に理解できる。 また、珍しい高圧送電線のサンプルを4種類入手し、講義中に回覧して理解を深めた。サンプルは電力会社に依頼して提供を受けた。実際に使用された電線であり、ふだん見えているが触れることができない点で印象的であった。電流はアルミ部分を流れ、張力を鋼線で受ける構造である。電気抵抗による送電損失だけでなく、力学の問題としても授業で議論することができた。 これらの開発した系統的演示実験、及びそれに対する学生の反応について物理学会で発表するとともに、近隣大学から物理教育担当者を講師として招いてワークショップを開催し、実験の実演も含め、物理教育の改善について意見交換を行った。対象とする学生集団の違いや、教育方針の違いを比較して議論でき、互いに参考になり有意義な企画であった。
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今後の研究の推進方策 |
系統的演示実験は物理法則発見の「追体験」であると同時に、「演習問題の可視化」とも見なせる。条件を変えて学生に計算させ、結果をその場で実験により検証できることが可視化した演習問題の利点である。学生に計算結果を実際に「見せる」ことにより、科学的な考え方や、物理法則の知識を定着させることができる。そこで、これまでの「物理法則発見の追体験型」に加えて「演習問題の可視化型」の実験も複数開発し、授業に適用する予定である。 さらに、実験とパソコンを用いたシミュレーションを組み合わせて学生に提示することも予定している。実験で現実感を持たせ、実現困難な条件をシミュレーションで補う方法である。例えば、「摩擦が無視できる」条件は実現困難であるが、理想的な結果を計算で再現できる。教育効果が高めるには、条件によって結果が異なり、かつ学生が結果を計算で確かめることができる実験が望ましく、適した実験を開発していく。 次に、教育効果の定量的評価が難しいことが課題である。学生を二つのグループに分け、一方だけに実験を導入して成績を比較すれば、教育効果が明瞭に判定できる。しかし、これでは半数の学生にとって不利益になる。そこで24年度は、実験の段階ごとに、学生に考えた根拠をワークシートに記載させた。学生が何に着目して考え、理解が進展するのか、判定するためである。その結果、教員の意図と異なる発想や誤解をしていることが分かった。得られた結果は、無用な誤解を避けるなど、系統的実験を改善するための重要な指針となる。一方、実験しながら学生に自由記載させた場合、結果のまとめ方が難しい。そこで、特定のキーワードに着目して統計を取るなど、有効な解析方法を検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は「物理法則発見の追体験型」に加えて「演習可視化型」の実験も複数開発し、授業に適用する予定である。高校向けの教材は比較的多く市販されているが、大学生に適したレベルの教材は少ない。そこで、実験教材を独自に開発し、また市販教材を大学用に改良する必要がある。 学生に主体的に考えさせて教育効果を高める目的を達成するため、仮説を立て、それを検証できるよう、段階的に進める実験を開発する。そのため、研究費は実験教材を開発するための材料費、消耗品、製作費などに使用する。市販の電子的なセンサーや実験教材も必要に応じて購入するが、そのまま使用するのではなく、開発する実験の一つの要素として使用する。例えば、併進運動する座標系や回転座標系において運動がどのように見えるか示すため、動く座標系に小型カメラを固定して動画撮影することが考えられる。視点を変えて運動を観察することにより、物理法則の理解を促進できると期待される。 さらに他の大学の物理教育の実情を視察する旅費、講師を招いて物理教育改善のワークショップを開催する費用、学会や会議で研究成果を発表する費用に使用する。 物理教育に関する情報収集や、参考文献の購入に使用する。 研究の最終年度であるので、研究成果をWEBサイトで公開する費用、及び論文発表するための費用に使用する。研究成果をまとめた冊子の印刷費、及び物理教育関係者に配布するための郵送費に使用する。
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