研究課題/領域番号 |
23501079
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
村田 成範 武庫川女子大学, 薬学部, 准教授 (80280999)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 遺伝子教育 / 遺伝子検査 / 科学教育 |
研究概要 |
本年度の研究・教育活動として、高等学校4校(計8回)および大学の初年度教育3大学(5回、所属大学含む)において、遺伝子検査によるゲノム科学リテラシーセミナーを開催した。高校生徒および指導教員に対しては遺伝子教育だけでは実感を伴わないため、2時間x2回の出前実験を実施した。実施後に自由記述方式のアンケートを行い、遺伝子を知ることと自分の生活・未来との関連について記述してもらった。生徒にとっては、遺伝子と実際の生活との関連について初めて考える機会となり、今まで占いの範疇であった性格判断や未来予測が少なからず科学的になった実感を伴う様子が窺えた。また予測することが必ずしも良い未来を約束するもので無いことも、一部の生徒ではあるが理解できていた。大学ではアルコール健康教育も含めた遺伝子リテラシーセミナーを行い、遺伝子そのものや個人情報について、より具体的な意見・感想が多くなる傾向があった。反面、指導者や周りの教員の中には懐疑的な意見もあり、個人情報を取り扱わない形式の遺伝子検査であり、且つ本学の倫理審査を経ていることを説明しても、不安になって実施をとりやめた施設もあった。本研究の意義である「遺伝子教育」「遺伝子検査と個人情報」について、やはり若い世代にきちんとした教育を施すことが、来るべき「個の医療」の時代に向けた遺伝子に対する意識改革へとつながることを確認できた。 教育効果測定は次年度からの課題であるが、高校生自身を追跡調査することは進路が多岐にわたることもあり難しいため、担当教員と密接に連絡を取って毎年継続することの重要性が明らかになった。大学に関しては遺伝子とアルコール代謝能力の関連性について在学中に実体験することになるため、教育効果を測定できる可能性があると考えられた。遺伝子教育とその教育効果について、パッチテストを用いた研究成果を日本薬学会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子に関するリテラシーセミナーおよび出前実習に関して研究計画通りに実施できた。また対象生徒および学生に対する自由記述形式のアンケートより、遺伝子教育の普及に関しては順調に進行しており、また教育効果測定のための課題も集積しつつある。更に実施施設の担当者との実施前の対応や、指導教員との情報交換を通して、あらためて若い世代に遺伝子教育を実施することの意義を確認できた。以上より遺伝子教育・遺伝子検査のリテラシー教育という観点から初年度の当初の目的を達成できた。一方で教育効果を測る目的では問題点も浮かび上がってきた。高校生では対象学年が2-3年生になるため1年ほどで卒業してしまい、進路も多岐にわたるため追跡調査がほぼ不可能である。唯一の情報源は指導教員になるため、継続的な遺伝子教育による情報の蓄積が重要であることが明らかとなった。それに対し大学では初年度教育の後、4年間の追跡が可能である。更にアルコール関連遺伝子を検査することで遺伝子タイプを実生活に活かす、生活の質の向上が可能になるため、教育効果を測定するためのアンケート項目を設定できる可能性が示唆された。つまり、高校と大学で研究の目的を使い分けることで、研究を発展させられることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の遺伝子教育により、若い世代への遺伝子教育の重要性、教育効果の測定にむけた取り組み方針が示唆されたため、24年度は高等学校での出前実習を含めた遺伝子教育を継続するとともに、現在の阪神地区にとどまらず関西・近畿およびその周辺地域まで、対象高校を広げていく。大学の初年度教育についても対象大学・学部を広げ、また所属大学内部でも賛同教員を増やしているところであり、クラス・学科単位での遺伝子教育を拡大する。大学では追跡調査も重要になるが、クラス担任制度などを活用して遺伝子教育と実生活との関わりについて教育効果の有無をアンケート調査できるよう、実施方法と共にアンケート内容に関しても精査していく。またセミナー形式の指導だけでなく、高校独自での遺伝子実験実施を想定した、簡便な実験プロトコールの作成にも取り組む。初年度も予備的な実験を試みたものの結果が安定せず、組織的・体系的な条件検討が必要である。また実験設備を持っている高校に対しては、内部の遺伝子検査班・研究班を立ち上げられるよう指導していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度よりも遺伝子セミナーの回数および遠隔地での開催が増加する分、旅費や謝金の支出が増加し、また遠隔地では実験器具類の輸送が必要なため、その他の項目の出費が増える(なお初年度は、研究代表者および連携研究者に対して所属大学からの出張旅費の補助があったため、旅費の執行金額が予算より大幅に少なかった)。出前実験の増加に加えて、高校独自での実験実施を想定して実験方法の改良に向けた体系的な実験を試みるため、初年度同様に試薬類を含む消耗品の購入が大半を占める。また高校内部で遺伝子検査(研究)班の立ち上げを支援するため、セミナーとは別に実験指導のための旅費および消耗品費も予定している。
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