研究課題/領域番号 |
23501079
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
村田 成範 武庫川女子大学, 薬学部, 准教授 (80280999)
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キーワード | 遺伝子教育 / 遺伝子検査 / 科学教育 |
研究概要 |
本年度の研究・教育活動として、高等学校1校(実験2回含む)、大学では6大学の初年度教育、および本学の初期演習10回程度、更に西宮市「にしのみや食育フェスタ」では小・中学生および保護者に対して、遺伝子検査を含むゲノム科学リテラシーセミナーを開催した。高校では昨年度からの連続開催となったため、指導教員との意見交換により、セミナー前から遺伝子に対する生徒の興味を高めることができた。技術を学ぶだけでは得られない、良い意味での意識改革に於いても少しずつではあるが効果を実感できるようになってきた。反面、実施校が減少しており、進学を優先せざるを得ない高校生への教育方法について課題が残った。大学ではアルコール健康教育も含めた遺伝子リテラシーセミナーを行い、医学部・薬学部が多かったこともあり、遺伝子そのものや個人情報について、より具体的な意見・感想が多かった。特に九州大学では昨年に引き続いての開催であり、遺伝子に関する倫理委員会の申請方法や判定基準なども含めて、他大学での開催におけるモデルシステムとなりつつある。教育効果測定については、大学に於いては遺伝子とアルコール代謝能力の関連性について在学中に実体験することになるため、教育効果を具体的に測定できる可能性があり、遺伝子検査を継続的に行う中でアンケート方法など模索している。 高校独自の遺伝子実験実施を想定した、簡便な実験プロトコールの作成では、実験に使用する酵素の安定化に関して添加剤の採用及び最適化にモデル実験系での実証実験に成功し、実施に向けて一歩前進した。成果は日本薬学会・近畿支部大会にて報告した。更に附属高校SSH内の遺伝子調査を目的とした研究班を指導しており、本年度は実験技術の習得だけでなく、調査の実施方法と法律に照らした妥当性の検討および倫理的な側面について検討を重ね、来年度の他高校との連携方法について実施に向けて前進しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子に関するリテラシーセミナーおよび出前実習に関してほぼ研究計画通りに実施できた。学生に対するアンケートによる教育効果測定方法の探索に関しては、主な対象を高校生から大学初年度学生に変更したため、課題を集積して対応を検討している。幾つかの高校・大学は昨年度からの連続開催であるため、実施責任者との訪問前の対応や、指導教員との情報交換が可能となり、遺伝子教育を受ける側の事前学習により効果が実感できるようになってきた。また本年度、大学での初年度教育に関して大きく前進した背景には、東邦大学および九州大学(両大学)との関係が大きく寄与している。遺伝子解析では倫理委員会の承諾が必要になるが、遺伝子に関する規定を理解している委員会は少ない。研究代表者の所属大学(本学)でも例外では無く、立場が変わって受け入れる側になれば開催はほぼ不可能である。両大学では本研究の意義を理解した上で、本学で既出の倫理委員会資料を基に先方の倫理委員会に打診し、簡易申請(審議不要)の判断により迅速に対応して問題無く開催できた。これがモデルシステムとなり、他大学から相談を受けた際の対応例として提示できるようになった。なお高校での出前実習に関しては本学の倫理委員会の承諾を得ている。 また昨年度有意義な成果を出せなかった、高校など実験設備を常備していない施設での簡便な実験方法の開発では、酵素の安定化について一定の目処が立ったため、来年度の実証実験にむけて前進した。更に高校での遺伝子調査研究班の立ち上げでは、本学付属高等学校SSH内で生徒主体の実験・調査班が活動し始め、調査範囲を広げるべく事前準備のための調査研究を指導した。 これまでの遺伝子教育活動によりアルコール症センターの横山顕先生の紹介で、NHK「ためしてガッテン」の取材を受けた。 以上より遺伝子教育・遺伝子検査のリテラシー教育という観点から2年目の目的を達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度大きく前進した大学初年度教育について、更に範囲・規模を広げて実施していく。NHK放映の反響により大学のみならず企業・病院・自治体といった単位での遺伝子検査の普及に向けた解析・教育が増加する可能性もあり、本教育研究の主旨に沿った運営方針を模索する必要がある。特に個人に対しては遺伝子教育の部分がおろそかになる可能性があり、その実施方法、教育効果について検討の余地がある。大学初年度教育については4年間の追跡が可能であり、またアルコール遺伝子を題材にする場合、飲めない年代から飲める年代へと変遷することにより、遺伝子と表現型について身をもって体験できる世代でもあるため、同じ大学で継続して実施できるよう働きかけていく。また高校独自での遺伝子実験実施を想定した、簡便な実験プロトコールの作成については一定の目処が立ったため、今後の高校での出前実験の際に一部試験的に導入して検証する。その後で独自実施を希望する高校に対して、実験キットの頒布ができるよう準備する。本年度、小・中学生を対象に遺伝子教育を行った経験から、最終年度は対象者の拡大を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は主に大学でのセミナー形式の出張であったため、実験器材の輸送も少なく、所属大学からの補助により賄える部分が多かった。しかし次年度は小・中学校や自治体主催の遺伝子教育セミナーを予定しており、またNHKで放映された後の反響により、更に多くの大学との連携が想定されている。教育機関からの遺伝子検査は無償提供を続けているため、サンプル数の増加により試薬・消耗品類の支出が大部分を占めることとなる。また出前実験の際に、高校独自での実験実施を想定した実験方法の改良が進展したため、サンプルおよび実験機器輸送の費用が必要となる。更に附属高校内部で遺伝子検査研究班の活動範囲拡大に伴い、セミナーとは別に実験指導のための旅費および消耗品費も予定している。
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