研究課題/領域番号 |
23501082
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研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
内田 修司 福島工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (80185024)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 富栄養化モデル / 環境保全 / 環境教育 |
研究概要 |
計画では、報告者が取り組んできた浄化活動を教材として利用するための測定及び作業のマニュアルの作成、浄化活動に利用するための装置の改良、学習情報を収集することになっていたが、震災の影響により、活動拠点の賢沼が護岸の崩落により立入禁止となった。小中学校の避難、居住制限など、地域の住民生活が大きく変化したため、計画の見直しを行うことになった。沼の水質については継続的に測定し、改善のための取り組みを進めたが、小中学生が参加できる浄化活動や地域住民の方々と協力して行う企画は全く実行できない状況になった。 震災とその後の余震によって、沼の水質も影響を受けた。これまで沼水のCODを沼底と表層の2点で比較してきた。酸素が十分に供給されない沼底水が空気と接触している表層水よりもCOD値が大きかったが、震災後は表層と沼底が全く同じ値を示した。CODを示す成分が空気酸化により分解できない成分が含まれていることを示した。難分解性の有機物などが水中に拡散したと考えられる。 そこで、沼の水質、成分の分析を実施した。沼のCODは年平均で13mg/Lであった。5~8mg/Lが1μm以下の微粒子で難分解性の有機物であるという結果が得られた。残りは酸欠状態で発生するリン、窒素、鉄によりものであった。また、リンや窒素の濃は富栄養化湖沼の基準値以下であり、人為的な汚染が問題となっている一般的な富栄養化状態とは異なることを明らかにした。これまで、賢沼の富栄養化モデルは提案されておらず、富栄養化の原因も明らかではなかったが、今回の測定と解析によって、沼周辺から流入する落ち葉や栄養塩の蓄積が水質を悪化させているという結論に達した。窒素やリンの濃度が水質基準を下回っているので、窒素やリンの回収では沼の浄化が進まないことも明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、地域の環境活動の中に沼の浄化、水質維持活動を組み込むこと、継続的な活動として取り組むためには、地域の小中学校で行われている学習の中に組み込め可能な教育プログラムを提案することを目的としている。これらの観点から、目的に達成度を評価すると、23年度は活動を提案するための基本事項の調査と確認を行えたこと、水質と周辺の環境変化など総合的に判断しても矛盾のない、合理的な沼の汚染モデルを提案できたと評価する。 沼水のCOD値が高いために、富栄養化と判断されていたが、今回の調査で諏訪湖や霞ヶ浦などで問題になっているリンや窒素の濃度を見る限り、基準値を越えたるような過剰の存在は見られなかった。さらにAGP試験により、ミクロキスティス、アナベナなどアオコの原因とされる藻類が賢沼の水では増殖できないことも確認し、沼が特殊な状態であることを証明した。沼の富栄養化は、地下水を経由した肥料分の流入、観光客による投餌などが考えられてきたが、昨年度の測定と調査から、沼周辺部の植生遷移による富栄養化モデルが適応できることを明らかにした。沼水中に存在する大量の植物プランクトンが、リンや窒素を濃縮し沼内で蓄積と放出を繰り返していることもわかった。沼は国指定の天然記念物であるため、浄化や水質改善という目的であっても国の許可なしには活動できなかったが、沼の汚染メカニズムからは、沼周辺の環境整備という間接的な方法で沼の浄化や汚染抑制に関われることを提案できることがわかった。植生の遷移を止めることはできないが、人が積極的に介入して樹林帯を管理する方法が有効であると言える。この活動には地域の住民が季節ごとに参加できる環境活動を実施できる可能性がある。また、過剰な有機物の流入を抑制する装置の設置などの設置など、継続的な活動とするための仕組みなどを検討する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度はアオコが夏から初冬まで度々発生したが、その主な発生種をミクロキスティスと考えていたが、AGP試験ではそれを否定する結果となっている。今年度は、沼水の特性の評価の一つとして沼で発生する植物プランクトンに注目し、生息種の変化を追跡する。震災により沼の護岸が崩れるなどの修復工事が25年度から開始される予定となり、本活動によって得られた解析結果をいわき市、福島県、文化庁に提出し、沼の自浄作用と地域住民による継続的な環境活動が可能となるような浄化システムの提案が行えるように必要な情報の収集と解析を行うと共に水質改善にも有益な工事となるように協力する。 地域住民による沼とその周辺の環境活動と小中学校における教育プログラムに関しては、津波被害により、沼周辺の住民居住区が甚大な被害を受け地域コミュニティーが仮設住宅などへの転居、避難を受けているため、試験的な活動として可能性を探る。ただ、東京電力福島第一発電所の事故により放出された放射性物質によって沼周辺の木々も放射性物質が付着しているため、沼周囲の遊歩道でも10μSv/hを越えるホットスポットが存在するなど活動前には放射線量の測定や除染活動が必要になる。このような事情もあり沼とその周辺部での活動はかなりの制限を受けることになる。本格的な活動前にはある一定の年齢以上の大人による除染作業が必要と考えている。小中学生が参加する活動は、沼の護岸や放射線量値に影響を受けて現状では実施が困難である。しかし、現地での活動以外の場所、学校や公民館などで、実施することになるため、現場を意識した試料の観察や測定など一層の工夫が必要である。また、これまで賢沼に対する思いを受け継いできた土地柄を尊重する形で教材開発と地域の環境活動への働き掛けが重要と思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は現在の沼の状態を記録するために、水質と環境調査を行う。沼には大量の植物プランクトンが発生しているが、これらを沼水から除去すると、沼水は貧栄養化状態となる。栄養塩類は植物プランクトンに濃縮蓄積されている。水中の植物プランクトンを除去できれば水の透明度、栄養塩量の改善が期待できる。1μm以下の微粒子は、沼の浄化を妨げているものとしてフミン類などの難分解性の有機物が考えられる。存在状態や量的な情報が得られるように分析を行う。 修復工事の計画などの必要な情報の提供と工事の実施と水質の維持に関する検討会などに積極的に関与して水質の改善と地域のシンボルの復活に有益な情報を提供する。また、蓄積しているデータの整理と公開について検討する。 環境活動の実践として、湧水の枯渇により沼周辺の乾燥が進行しているので、浅瀬、湿地の復活を目標に地域の方々に協力を呼びかけ、掘削を試みる。賢沼は陸地から直接沼に流れ込むため、流入物のトラップとなりうる湿地が水質浄化に重要と考えている。浅瀬ではヌマエビなども生育するため、生物の多様化など効果が期待できる。活動状況が目でわかることが重要で、地域のシンボルの復活のためにも汗して協力して行う作業は重要な意味を持つと考えている。小中学生が学習する環境プログラムとしては、貧栄養化状態で大量発生する植物プランクトンの育成条件を探る活動を提案し、富栄養化にいついて、学年に応じた取り組みができるように検討する。夏休みの自由研究、クラブ活動などで取り組めるようにプランクトンの採取、育成セットの内容などを市教委、地域校の理科担当教諭を始めとする関係者との協議を進めたいと考えている。放射線量と地震による建物などの被害が大きく現地でのプランクトン採取や水質調査を実施することはできないので、現状を記録してHPで公開する。
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