研究課題/領域番号 |
23501082
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研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
内田 修司 福島工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (80185024)
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キーワード | 水質浄化 |
研究概要 |
東日本大震災から2年が過ぎたが、本計画の活動の中心となっている賢沼(かしこぬま)の修復工事の着工は今秋着工との計画が発表された状態で、安全上の理由から沼周辺への立ち入りの制限が行われている。また、賢沼の空間線量が周辺の2倍程度高いため、地域住民との連携活動は説明会の開催で留まっている。地域の小中学校は津波と原子力災害によって児童、生徒の減少や立ち入り制限、被曝の軽減措置などが大きく影響して現地活動は実施できていない。代わりに定期的に小中学校を訪問し、生徒、教諭、保護者に沼の現状と復興計画の説明会を開催した。地域の復興協議会の協力を得て仮設住宅団地内でも同様の説明会を実施した。 定期的な水質評価と植物プランクトンの測定により沼の環境評価を実施した。解析の結果、沼水の化学的酸素要求量CODは年平均で15mg/Lと水質基準値を上回っているが、富栄養化状態の指標となる全窒素量と全リン量の濃度は、規制値以下であるため、水自体の貧栄養化状態であり、沼底に堆積した有機物の分解により溶出する成分が沼の水質を支配していることを確認した。 沼底の堆積物は沼周囲の樹木の落葉、沼で大量に発生した植物プランクトンであり、水温の上昇に伴い好気性分解されるが、堆積量が大過剰となっているため、酸素の供給が追いつかず、嫌気性分解に切り替わり、5から9月まで水深2mから沼底までは溶存酸素量が2mg/Lを下回る状態となった。この間、硫化水素、メタン、アンモニアが発生し滞留した。溶出したリンは植物プランクトンに吸収されるが、過剰な窒素は、アンモニア態窒素として沼水中に1ヶ月ほど存在することも確認した。 植物プランクトンの観察から、沼の優占種は炭化水素生成菌のボツリオコッカス・ブラウニーであることが確認された。現地での環境活動に代わり沼固有の植物プランクトンの培養など教材の開発に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗の遅れは、震災の影響としか言いようがない。いわき市でも様々な震災復興事業が行われているが、津波被害地域の居住制限と移住が進まないため、地域の住民が60%ほど減少している。さらに、原子力災害による放射性セシウムの流れこみなどにより、沼周辺の空間線量値が仮設住宅団地よりも高いため、年少者の活動など実施できていない。 水質の改善に関しては、汚染原因と物質の循環について知見が得られた。これらを文化庁に提出し今秋開始される沼の護岸工事とその後に続く水質維持の取り組みに反映させたいと考えている。地元固有の情報の発信は、地元の文化の継承に重要であり地域で取り組める課題と設定したが、震災により地域のコミュニティーが崩壊、原子力事故により地元の経済を支えていたgy業や水産加工業も復興途上であり、水質改善と復興、環境教育という震災前のコンセプトの再検討が必要と考えている。 その中で、沼に生息する植物プランクトンの優占種がボツリオコッカス・ブラウニーであることが確認され、現在、単離培養を進めている。この種に関しては、増殖速度の遅さがネックになっているが、文献値と比較すると10倍から50倍程度の増殖速度が大きいため、遺伝子解析などを進め、バイオエネルギー源としての評価と地元の教材ソースとなるよう実験を進めている。 賢沼は国指定の天然記念物であり、地域の貴重な財産であるが、震災により地域の分散化、産業の衰退の危機など地域の影響が大きく活動の場を教室や実験室へ移す必要性を感じている。その点においても炭化水素生産菌の発見は重要事項と考え、地域を題材にした環境教育に取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
護岸工事の工法の選択、その後に続く水質改善と維持方法を具体化し、いわき市と地域コミュニティーに提案し、関係者の協力を得ながら、その実現を目指す。そのためにも、水質分析を継続し、データに基づいた水質改善方法を提案し、実現に向けて文化庁との協議を進める。 津波被害により地域コミュニティーのダメージは大きいが、修復工事により沼周辺への立ち入り制限が緩和されれば、かつて沼を中心にして行われていた神事や地域行事など文化の継承も動くものと期待している。地域で環境計測を長期間実施しているグループは存在しないため、我々は測定活動が住民の活動を支えたり支援できるよう取り組みを継続させる。 新しい生物資源としてのボツリオコッカス・ブラウニーに関しては、小中学生による培養やオイルの抽出などの操作を体験してもらえるような、実験教室、その実現を可能とする講習会などの企画を提案したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
震災の影響で沼周辺への立ち入りが制限が継続するので、現地での活動から離れざるを得ない。沼の水質測定、浄化に関する活動は、研究グループで当面取り組む課題とし、環境教材、バイオエネルギー源としての植物プランクトンの教材化を進める。単離精製、培養、それらを実施可能とする環境条件を明らかにして、震災で大きなダメージを受けた歴史的資産の一部を新しい生物環境資源として活用するプロセスに小中学生など沼の周辺住民やいわき市などへ提供できるように取り組む。
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