研究課題/領域番号 |
23501110
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
中野 俊幸 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 教授 (20284424)
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キーワード | パソコンの活用 |
研究概要 |
本研究の具体的目標の一つは,幾何的図の捉え方の相違(実体か,記号か)と幾何的論証能力との相関性を,中学生に対する調査で明らかにすることである。幾何的図の捉え方を問う問題の回答と証明問題の成績とを対応させることによって、この相関性を調べる。そして、図的表記を実体と見る思考から規約的記号と見る思考への変容と幾何的論証能力向上との関係性について考察することである。 図的表記を、実体と規約記号のどちらと捉えているかを知るには、図的表記の類似的有契性と規約性のどちらをより信頼できるものと考えているかを調べればよい。24年度は、中学生へのアンケート調査を実施し、証明問題の成績を利用して、相関性を調べた。しかし、有効な相関性が得られなかった。これは、アンケート問題において、極端に歪んだ図を避けたため、図的表記の類似的有契性と規約性のどちらをより信頼するかの判断の明確な相違がとれなかったためと考えている。 本研究の第2の具体的目標は,幾何的論証能力の育成に,「図形を分析する前に,まず作らせることから始める」という構成を先行させる指導法が有効であり,特にパソコンの幾何的シミュレーション・ソフトの活用が有効であることを,中学校の授業実践を開発して検証することである。これについては中学校の現場教師の協力を得て、パソコンを幾何学習の教具として、(1)説明の教具として活用、(2)問題を発展的に捉えさせる教具として活用、(3)新しい性質や課題を発見する文脈をつくるための教具として活用 の3つの活用方法を考察・授業実践した。特に、(2)の活用では、証明の対象となっている図を動的に変化させることによって、証明とはある条件下での性質の不変性を扱っていることを生徒に意識化させ、図の場合分けと証明記述の変化との対応を考察させるという画期的な証明活動を中学校の授業で実現することができた。 、
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、実践的研究を基本にしているので、教育現場の制約に合わせざるを得ないところに、研究の達成度が十分でないところがある。しかし、24年度は、中学校現場教師の協力を得て、アンケートの回収と生徒の幾何的論証能力に関わる成績の提供を得たので、ほぼ計画通りに研究が進められた。ただ、期待した分析結果が得られなかった。しかし、アンケートの改良点が明らかになったので、アンケートを改良し25年度に再度、調査・研究を進める。 パソコンを活用する幾何の学習指導については、24年度は、中学校現場教師の積極的な協力を得て、教材開発・授業設計・授業実践を計画通りに行うことができた。ただし、その授業の幾何的論証能力向上への効果については、アンケート分析が期待通りの結果が得られなかったために、それを評価する量的分析はできていない。しかし、授業ビデオや生徒の記述したものを分析すると、質的には有効性を検証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
幾何的図の捉え方を問う問題の図は、平成24年度に行ったアンケートの結果、改良点が明らかになったので、25年度は図を改善し、再度アンケート調査を行う。その分析を基に、図的表記を実体と見る思考から規約的記号と見る思考への変容と幾何的論証能力向上との関係性について考察する。 パソコンを活用する幾何の学習指導については、教材開発・授業設計・授業実践を行い、生徒の幾何的論証能力の向上に有効なパソコンの活用方法とその指導方法について有用な教育的知見が得られた。25年度は、この知見をもとにパソコンを活用する幾何学習指導の教材開発・授業設計・授業実践の研究をさらに進める。そして、その有効性をアンケート調査・研究で得られた問題を使って、量的に検証する方法を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
幾何の学習指導におけるパソコンの有効な活用を検討する過程で、ディスプレイ上の図形を複数の生徒が同時に操作することができれば、より有効な思考のツールとなることが示唆された。そこで、そのような画面にタッチして操作できるiPadの活用を検討することにしたが、中国の反日デモの影響で納品が予定よりも1ケ月半以上遅れたため、中学校の教育現場での実践の時期的機会を逸してしまい、試みることができなかった。このため、これに費やすように考えていた研究費が残った次第である。しかし、現場教師にiPadの操作技能を習得してもらう十分な時間も得られたので、25年度は、iPadを授業で本格的に活用することを考案する。このため、研究費を使用してiPadの台数も増やすとともにその周辺機器も整えたい。 一方で、パソコンを活用する幾何の学習指導については、周辺機器も調いパソコン操作技能も十分習得しているので、中学校の現場教師が実践の好機を逃さずにタイムリーに授業研究を行い、その記録を残して後で授業分析ができるようビデオカメラ等を十分に整える予定である。 25年は研究成果を学会等で発表するとともに、報告書としてまとめる予定であるが、学会発表等は、研究協力者の中学校教師とともに行く予定であり、その出張旅費として研究費を使用する。また、報告書は、中学校幾何学習指導でのパソコン活用の参考資料ともなるものにしたいので、次年度研究費を使用して十分な部数を作成する予定である。
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