本研究の目標の一つは,幾何的図の捉え方の相違(実体か,記号か)と幾何的論証能力との相関性を,中学生に対する調査で明らかにすることである。そして、幾何的図を実体と見る思考から規約的記号と見る思考への変容と幾何的論証能力向上との関係性について考察することである。 幾何的図の捉え方の相違を調べるため,図の類似的有契性と規約性のどちらをより信頼しているかをみるための図を改めて作り直して調査を実施した。生徒の回答からは,図の類似的有契性と規約性のどちらをより信頼できるかの判断に明確な相違が見られ,その根拠は,幾何的図の捉え方の相違を反映していることが明らかになった。また、証明問題の成績を利用してその相違と証明能力との相関性を調べた。しかし,証明問題の成績の十分なデータの数が得られなかったため,幾何的図の捉え方と証明能力との相関性については,量的に有意な結論は得られなかった。これは,今後の課題である。 本研究の第2の目標は,幾何的論証能力の育成に,パソコンの幾何的シミュレーションソフトの活用が有効であることを,中学校の授業実践を開発して検証することである。これについては中学校の現場教師の協力を得て,幾何的問題を発展的に捉えさせる教具としてパソコンを活用する授業実践を開発した。パソコンの幾何的シミュレーションを活用して,証明する図を動的に変化させることによって、証明の記述対象が,ある性質に関する条件下で不変性であることを生徒に意識させることができた。また,図の場合分けと証明記述の変化との対応を考察させることも実践することができた。 この実践と論証能力向上との因果関係について,上記調査アンケートが完成できなかったため量的分析を行うことはできなかったが,論証活動に対する生徒の意欲・関心・思考態度の向上など,生徒の論証能力の質的変容は,実践した数学教師の主観的判断では明らかとなった。
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