研究概要 |
本研究では、学習者が未来または過去の自分自身へ宛てた手紙や自分のこと(生き方、将来の夢など)を伝える作品をデジタルストーリーテリング(digital storytelling、略称「DST」)で表現する授業設計及び実践にとり組んだ。具体的に、大学生を対象とした実践は三重大学教育学部教員養成系授業で、中学生を対象とした実践は三重県志摩市立H中学校で行われた。 DST制作授業の設計のために、2010~2013年度の大学授業で学生がDST制作にとり組んだ感想を質的分析し、授業デザインのためのコメントをコード・カテゴリー化した。その中で、学習者による振り返り、自己効力感、やりがい、自分の生き方、満足感などがキーワードとして挙げられた。また、DST制作過程の中で、ARCSモデル(Attention,Relevance,Confidence,Satisfaction)に着目し、DST制作のテクニックと作品内容面でどのように異なってくるかについて、DST制作の事前・途中・事後で、大学生がどのようにARCSについて考えているかを記述させ、その分析を量的・質的両面で進めた。その結果、手紙形式のDSTは人に伝える言語活動を充実するために有効であり、「自分への手紙」をテーマに設定することが学習者自身の生き方を内省することにつながることが明らかになった。 H中学校では、3年生41名を対象とし、2013年度に、年間5本のDST作品を制作・鑑賞させた。全て内省を促す意図でテーマ(短歌「ありがとう」「未来への伝言」等)を設定し、国語科の単元と関連性を持たせたが、授業実践後、1年間、DST制作・鑑賞を行うことで、①公的自意識の発達と関係がある、②従来法より、コミュニケーションを円滑にする効果がある、③「共感」「理解」「発見」の繰り返しにより、他者・自己理解を深める効果がある、ということが明らかになった。
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