本研究では,受講生が授業で感じる負担感の客観的な測定法を確立し,授業時間内に学ぶ分量が受講者の能力に比して適正な分量であるか,受講者のモチベーションは授業の負担感とどのように関連するのか,また,授業内容への好悪,興味,苦手意識は負担感にどのように影響するのかを明らかにすることを目的とした.従来の教育研究は調査紙を用いた主観に基づくデータの解析であるため,客観性が乏しく,受講生の資質も含めた教育環境の影響を大きく受けるものと思われる.本研究では唾液アミラーゼ活性によるストレスの測定を加えることでより客観性な分析が可能になる.また,質問紙による調査を唾液アミラーゼ活性によるストレスの測定で較正することも可能になるため,「ちょうど良い」授業量を質問紙で簡便に測定することも可能となる. 研究の方法としては,1年次生対象の情報処理系の2コマ続きの基本科目において,授業前,授業中間,授業終了後の3時点において,調査紙によるストレスや疲労度,授業内容に関する主観的感覚の調査と,唾液アミラーゼ活性を用いたストレスの客観的測定を8週程度に渡って実施した. 本研究で得られた主な成果を以下に述べる.ストレス測定値の水準は個人差が非常に大きい.ただし,ストレス値の差についてはある程度の傾向が見られる.一般に,授業開始時から中間の休憩時にかけての測定値の上昇は大きく,中間の休憩時から授業終了時の測定値にはほとんど変化がない.また,授業に関する主観的な感覚とストレス測定値には関連が見られなかった.疲れに関する主観的な感覚とストレス測定値にも関連が見られなかった.しかし,興味深いことに,ストレスに関する主観的な感覚とストレス測定値には関連が見られた.主観的な感覚は概ね相互に整合性を持っていた.主観的なストレス,主観的な肉体的疲労,主観的な精神的疲労は区別して認識されているものと思われる.
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