研究課題/領域番号 |
23501176
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
山本 富士男 神奈川工科大学, 情報学部, 教授 (90267641)
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キーワード | 分散システム / フィジカルコンピューティング / 情報技術教育 / ソフトウェア / 短距離無線通信 |
研究概要 |
本研究は、分散ソフトウェア技術と短距離無線通信やセンサ/アクチュエータ等を用いるフィジカルコンピューティング/アプリケーション開発関連技術を、学習者が興味を持って修得できることを目指している。前年度までに、ZigBee準拠の短距離無線を装備する小型マシン多数を用いたネットワーク同期のための基本検討を実施した。これは、グローバルな柱時計の無い無線機器を用いた分散アプリケーションにとって重要な仕組みのひとつとなった。 今年度は、引き続き、各種センサや通信機能を備えたスマートフォン(Android端末)を利用して、約10個のアプリケーションを開発した。その過程で、学習者が今後活用すべきデバイス等の要素と、これら要素と外部システム(クラウド、web)との関係についての「クラウド/デバイスとモバイルアプリケーションの技術関係マップ」を作成した。これは、学習者が、フィジカルインタフェースを持つ分散システム・アプリケーションを開発する際に利用できるスケルトンを提供するための基盤となる。 このマップには、本年度新たに開発した「エージェント指向による高層ビルからの避難モデリング研究」の知見を加えた。ここでは、フィジカルな世界との接続を実現した。具体的には、建物内の階段の各入口にNFCタグ(ICタグ)を貼り、避難者は、携帯しているAndroid端末をそれらにタッチすることで、それぞれの位置と時刻情報がクラウド上のデータベースへ格納されるようにした。今後は、さらに、Androidに内蔵されている大気圧から現在階を推定し、シミュレータと連動させる仕組みも使ってゆく。そのための、本年度は、大気圧の変動に影響されない現在階の推定方式も明らかにした。NFCタグ(ICタグ)や大気圧センサは、本研究の目標を達成するために必要な重要要素であり、今年度はその利用実績を蓄えることにもなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
情報系教育としてのアプリケーション課題を作成する場合、利用される個々の構成要素は、基盤プログラミング環境群(マルチスレッド、マルチコア、オブジェクト共有空間、言語等)、 IT デバイス群(短距離無線、センサ、アクチュエータ等)、クラウド環境群(Webサービス、クラウドサービス、スマートフォン等)などに分類される。個々のアプリケーションは、それらの群に属する要素をどのように結合させるかで大枠が決まる。そのような観点で研究を進めた。 そのためには、かなり多数のアプリケーションを作成し、その中から、汎用的に使える要素と、他のシステム(仕組み)との連携形態を抽出する必要がある。本年度は、それらに関する本格的なデータベースを完成させるには至っていないが、その基盤となる「クラウド/デバイスとモバイルアプリケーションの技術関係マップ」を作成した。これにより、アプリケーション作成を行う課題を考案する際に、どのような技術を習得させたいのか、という目的にそったものを効率良く案出する仕組みを提供するための基礎を構築できた。 また、昨年度は対象としていなかった、スマートフォン(Android)に備わっている各種センサと通信手段(近距離通信、3G/4G通信)、およびクラウドとの連携アプリケーションも多数開発した。さらに、エージェント指向モデリングを実世界のデバイスと連携させる試行も行った。これらにより、スマートフォン単体だけではなく、複数のスマートフォン同士の連携、さらには、スマートフォンと外部のデバイスやクラウドサービスとの連携に関して、上記枠組みの幅を広げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの成果を利用して、学習者がフィジィカルインターフェースを有する分散アプリケーションを作成する場合、目的、分野、ネットワーク環境、利用するリモートデバイスやWebサービス、等々の条件に応じて、それに必要なアプリケーションの枠組みが自動的、または対話的に提示されるシステムをめざす。それを推進するため、引き続き、NFC(近距離無線通信)、スマートフォンAndroid間の軽量な通信プロトコルの活用の可能性を明らかにして行く。 上記で提示される枠組みに沿って、実際にアプリケーションを開発する。その候補としては、「遠隔エレベータ運行管理システム」を考えている。これは、Android端末に内蔵されている気圧計を使って、現在階を推定する技術を使う。現在階の情報を、離れた部屋にあるAndroid端末が適当な間隔で受信する。このような例は、本研究目的である、フィジカルデバイス(気圧センサ)を使った、複数のAndroid端末による分散システムの好例になると思われる。次に、この枠組み提示システムを利用して分散アプリケーションを作成した場合の情報教育上の効果を評価する方式の検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費(185,233円)が生じた。これは、これまでの研究成果を、今後国際会議で3回発表する計画としているので、その旅費を確保するためである。 次年度の研究費は、主として、分散アプリケーションのプラットフォームの一つであるAndroid端末の新機種購入に充てる。Androidの進歩が著しく、無線通信機能(WiFi-DirectやNear Field Communication)に関する進歩は、本研究で扱うフィジカルコンコンピューテジング、および分散アプリケーションにとって非常に重要なものである。Android端末には各種のセンサが装備されており、本研究に不可欠であるが、端末同士の何らかの同期を行う際には、端末による固有計測精度のばらつきが問題となる。したがって、一定台数のAndroid端末を購入し、その中で精度(初期バイアスを含む)が近いペアを何組か揃える必要がある。Android端末同士を連携させる場合、屋内では無線LANがあれば十分であるが、Android端末を屋外でも使用する必要があるので、インターネットへ接続させるための移動式ルータ(WiFiルータ)の購入も行う。
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