研究課題/領域番号 |
23501204
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研究機関 | 前橋工科大学 |
研究代表者 |
小林 龍彦 前橋工科大学, 工学部, 教授 (10269300)
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キーワード | 国際研究者交流・中国 / 漢訳系西洋暦算書 / 近世日本暦算家 / 中根元圭 / 高橋至時 / 高橋景保 / 間重富 |
研究概要 |
平成24年度の研究では、(1)漢訳西洋暦算書の近世暦算家への影響、(2)近世中期江戸幕府の外交政策の部分的転換:漢訳西洋暦算の解禁に拘わったとされる中根元圭の生涯と業績に関する研究などを中心にして実施した。 (1)では、幕府天文方の高橋至時、間重富、高橋景保などの写本から、振り子の振動周期の研究、振り子の振動と天秤はかりとの関係、それらと太陽から諸惑星までの半径と公転周期(ケプラーの第3法則)が関係性をもつことについて、特に、重富のノート『垂球精義』を中心にして研究を進めた。彼らが特に力を注いで学習した漢訳西洋系暦算書は『霊台儀象志』『暦象考成』『同後編』などであるが、振り子の振動は『霊台儀象志』の研究から理解したものである。この事実は、近世暦算学者が物理事象に無関心であったとする旧説に一石を投じる結果となった。研究成果は国際会議「科技史論壇」(内蒙古師範大学、2012年9月)、「第3回東アジア数学史国際研究集会」(京都大学人文科学研究所、2013年3月)および日本科学史学会第59回年会・総会(三重大学、2012年5月)において発表した。 (2)の研究では、論文「中根元圭の研究(I)」(『数学史の研究』、数理解析研究所講究録1787、2012年4月)において、中根の生涯の前半について詳論し、先行研究の誤謬の払拭につとめた。また、「中根元圭の『新撰古暦便覧』と漢訳系西洋天文・暦学書」(『科学史研究』No.264, 2012年冬)では、元圭の処女作である『新撰古暦便覧』の暦構造を分析するとともに、この暦書が『天経或問』『時憲暦』など西洋天文学の影響のもとに著された中国天文暦学書の成果を吸収していることを指摘した。 また、2012年9月には、内蒙古師範大学・北京清華大学・中国科学院自然科学史研究所の収蔵史料についての調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
享保11年に舶載された『暦算全書』研究では、舶載本の巻頭に付された序文が、中国では「失伝」とされる楊作枚の『三角法会編』へ寄せたものであることを新たに見いだした。また、これまで『暦算全書』の訓点和訳の経緯について不明な点があったが、江戸幕府の日記をもとにその経過を完全に明らかにすることができた。訓点和訳をおこなった中根元圭の処女作『新撰古暦便覧』に漢訳系西洋暦算書の影響があることも初めて指摘できた。 これまで近世日本科学史研究者の『霊台儀象志』への関心はあまり高くなかったが、筆者はこの天文台造営書に振り子の振動と物体の自由落下に拘わる記述があることを読み解き、高橋父子や間重富らによる物理事象の研究に繋がっていることを明確に指摘した。この指摘は、従来の近世日本科学史研究に一石を投じる役割をもっている。 さらに、同書と『西洋新法暦書』に載る大洋航海法が、幕府天文方高橋至時の『海中舟道考』を嚆矢として、本多利明の『渡海新法』や坂部廣胖の『算法海路安心録』などの江戸末期の数学者らによる航海術法の研究に繋がっていることを指摘できた意義も大きい。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題を推進するための基本方針は、新たな資料の調査とそれらを精読し分析することにある。従って、国内の各研究機関が収蔵する資料調査を従前同様に行う。これと並行して、資料の来歴や記述内容の精査を行う。さらには周辺知識人へどのように漢訳系天文暦学書の知識が広がったかなど知識伝播と影響に関する研究を実施する。 また、漢訳系暦算書の研究では、中国人研究者の協力は欠かせないことから、彼らとのの共同研究も実施していく。 研究結果を積極的に公開することも研究推進の方策として活用したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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