研究課題/領域番号 |
23501204
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研究機関 | 四日市大学 |
研究代表者 |
小林 龍彦 四日市大学, 付置研究所, 研究員 (10269300)
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キーワード | 和算 / 関孝和 / 建部賢弘 / 中根元圭 / 禁書令 / 梅文鼎『方程論』 |
研究概要 |
本年度は研究成果を発表することに専念した。 第24回国際科学史技術史医学史会議の“The Institutionalization of Mathematics and thr Founding of National Societies”では、和算から洋算への移行期日本数学の状況を報告し、19世紀後半から20世紀前半の数学の国際比較研究の一翼を担った。京大数理研の『数学史の研究』では「中根元圭の研究(III)-禁書の緩和令と中根元圭」と題して発表し、江戸幕府の禁書緩和令が中根元圭の進言によらないとする見解を示した。これは『徳川実紀』の記事を批判的に検討することから得られた。日本数学会秋季総合分科会では「関孝和、建部賢弘、そして中根元圭」と題して講演し、江戸幕府での彼らの職務と交流について報告した。「生誕380年記念梅文鼎国際会議」では、江戸幕府の禁書政策に関連して梅文鼎の『方程論』が禁書になった原因が、同書の序文に『同文算指』と利瑪竇の名前が載ることに因ることを発表した。また、上海交通大学と東華大学では幕府の禁書政策と漢訳系西洋暦算書の影響について講演した。東亜数学典籍研討会II-3では“Matteo Ricci and the Prohibited Book Policy by the Edo Shogunate”と題して江戸幕府のマテオ・リッチ観と禁書政策について発表した。 論文は「近世日本の暦算書籍の出版事情とその値段について」を著し、近世初期の算学・暦書の出版の実状と書籍値段の調査結果を公表した。Influence of European Mathematics on Pre-Meiji Japanでは、漢訳書及び蘭書から伝わった数学・天文学の知識が近世日本でどのように定着したかを詳論した。 調査は日本学士院、国立公文書館などで史料の探索とそれらの精読を中心に実施。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果の蓄積から、漢訳西洋暦算書の近世日本での研究の実状などについて、国内外において積極的に発表できたことは正当に評価できる。英文Influence of European Mathematics on Pre-Meiji Japanは、今後の海外研究者の指針になると自負する。中根元圭の研究では江戸幕府の禁書令の緩和策にあって、元圭が徳川吉宗に緩和策を進言したとする従前の説に異議を唱えたことができた。これは『徳川実紀』有徳院御実紀附録の記事の批判的検討から導かれたものである。そして、内閣文庫の調査からは幕府天文方の進言であるとする史料が発見できたことの研究発展の意義は大きい。中根元圭と併せて『新寫訳本暦算全書叙』の詳密な検討から建部賢弘の緩和令への関与の在り方が考察できたことも収穫である。また、従前の研究ではあまり関心を集めなかった、長崎での焚書の実例を調査し発表し得たことも成果と言える。特に、耶蘇の教義に無関係な書籍が焚書の対象になった具体的な事例を発見し、北京清華大学での研究会において報告したところ、中国の若手研究者の関心を喚起したことの意義は大きく、この分野での今後の日中共同研究の可能性を与えたことは評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
漢訳西洋暦算書の我が国への伝播と研究の延長線上の視点として獲得した近世日本人の耶蘇教観および利瑪竇(Matteo Ricci)観の研究は、今後の課題として重要と思われる。殊に、利瑪竇に対する江戸幕府の警戒感はキリスト教対策から生じたものであるが、禁書緩和令の発令後は算学・暦学者は勿論のこと、儒者たちまでが種々の好意的な言説を残すようになる。そうした彼えらの発言は思想的転換と捉えることができると同時に、禁教政策下での切支丹観を垣間見ることになると思われる。これまで宗教史や思想史からの研究は行われてきているが、科学史研究からの視点による利瑪竇利やキリスト教観の研究の余地は残されていると言えるのである。 また、これまで実施してきた漢訳西洋暦算書の伝播と国内の所在の調査と併せて、江戸時代の日本人がこれらから何を学び、何を学問的に発展させていったか、さらにはどのようにして西洋の科学知識が地方に広がっていったかについても更に研究を進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年7月のマンチェスター大学で開催された国際会議参加の帰路に、本研究外の用務を含んだ為、学校法人暁学園旅費規程により、直帰出来なかった場合には、旅費の支給額が片道分の支給になる旨の定めがあり、当規程によって、その分、旅費の差額が生じている。 当初の研究計画に予定しなかった国際会議が2014年10月にニューヨークで開催されるため、差額分をこれの旅費に充当する。
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