本研究の目的は近年急速に工業化を遂げているアジア諸国における基盤的技術の形成過程を明らかにすることであった。これまでの研究ではとくに情報技術を媒介としたアナログ技術のデジタル化による技術導入、先進工業国の現地進出企業との取引を通じての技術移転を主な技術形成の経路として現地のローカル企業が技術蓄積を進めてきていることを明らかにしている。こうした経路による技術移転により各国の基盤的技術も急速に進展してきていることが明らかになった。しかし、この進展した技術がどの程度の水準の技術であるのかについて評価することを本年度の課題とした。 この課題を明らかにするために現地に進出していてる日系企業を中心に基盤的技術分野の部品に関する調達状況を調査することにした。調査対象は、アジアの中でも最も工業化の速度が速い中国を対象にし、とりわけ高品質の部品が必要となる自動車関連企業の現地部品調達状況をみることで現地ローカル企業の技術水準を判断することにした。ここで明らかになったことは、同じローカル部品メーカーの部品でも、欧米系の自動車関連メーカーと日系それでは判断が異なるということである。欧米系の自動車関連メーカーは、品質基準をクリアするものとして実際に取引をしているのに対して、日系のメーカーは取引を行っていない。この実態を詳しく調査してみると、現地の日系メーカーは品質基準をクリアしていると判断しているが、日本の本社決済において許可がでないというケースが非常多いことが明らかになった。 現段階でのアジアの工業化の段階として先進工業国が求める水準に到達していることが明らかになった。しかし、とくに日系企業の場合、意思決定過程において本社の決済が優先されるため、調達の現地化が進まず、このことが日系企業のアジア市場における立ち後れの原因になっていることも明らかになった。
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