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2012 年度 実施状況報告書

16世紀数学論の学問論的特質と射程に関する歴史的・哲学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 23501208
研究機関東海大学

研究代表者

東 慎一郎  東海大学, 総合教育センター, 准教授 (10366065)

キーワードルネサンス思想史 / 学問論 / 数学論 / ピッコローミニ / ペトラルカ / サルターティ
研究概要

1) まず,16世紀の哲学者 A. ピッコローミニに見られる,数学的諸学に対するラディカルな学問論的問い直し作業が,果たしてルネサンスや中世哲学においてすでに存在したかどうか,先駆的議論があったかどうかを,前年度に続けて調査した.既にBiard (2006) によっても重要性が指摘されていたビュリダンの数学論に研究対象を絞り込んだ上で,テキストの詳細な検討を行った.その主張をピッコローミニのそれと比較した結果,論点や論理が似ているものの,明確な影響関係までは断定できないことがわかった.
2) 同様に,16世紀数学論論争の行われた知的コンテキストを,より視野を広げて明らかにしようと努力し,中世後期およびルネサンスの他の学問論論議についても調査した.中でも,イタリアを中心に行われた法学-医学論争が注目される.その先駆者であったフランチェスコ・ペトラルカ,また論争の立役者であったフィレンツェのコルッチオ・サルターティのテキストからは,人文主義者という一般的なイメージとは異なる,哲学的概念を駆使した学問論的考察が読み取れる.こうした学問論の水脈を確かめられたことは,ピッコローミニに代表される16世紀数学論のみならず,科学革命期のベイコンやデカルトの学問論までも,ひとつの連続した歴史として把握する可能性が見えてきたことを意味する.発展する価値が十分にある大きな問題――すなわち,ルネサンスから初期近代までの学問論的精神の連続性という――が発見されたと思われる.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

平成24年度では,研究計画は概ね順調に遂行できたものの,一部で予想より早く進んだため,平成25年度の計画を先取りした部分もある.何よりも,16世紀数学論がより大きな学問論の歴史のひとこまでしかないことの手がかりがつかめつつある.
初期人文主義の学問論的精神は,哲学全体の意義,あるいは法学や医学といった専門分野の意義について問う,という形で発揮された.とりあげる題材は異なるものの,知の本性を射程を,より一般的見地から検討するという精神は,16世紀数学論と共通している.
ペトラルカの晩年の著作『無知について』は,レトリカルな性格が強いものの,認識と人間的価値との関連について鋭く考察した書物として注目に値する.この著作の正確な歴史的位置を理解するには,アリストテレス主義自然哲学,アウグスティヌスの影響,キケロや懐疑主義の影響も考慮しなければならないことが明らかになった.サルターティの『法学と医学の高貴さについて』からは,認識の限界へのペトラルカ的関心が,哲学的道具立てでより具体的に展開されていることも明らかになった.

今後の研究の推進方策

研究計画は予定より早く消化できているため,今年度は引き続き,初期人文主義における学問論に関して,ペトラルカとサルターティを中心に進めてゆく.ペトラルカ『無知について』は,キケロやセネカといったローマ哲学者たち,あるいはアウグスティヌスのような教父哲学に強く影響され,同時代のアリストテレス主義が分析され批判されているが,学問論的に注目されるのはキケロを介した懐疑主義の影響である.懐疑主義が,限定的に,信仰擁護のために使われている.ペトラルカは懐疑主義に対してどのような態度をとっていたのかについて,他の著作も視野に入れつつ,検証する必要がある.
サルターティの『法学と医学云々』の分析は,人知限界論,自然科学限界論の展開を中心に,第6章や第19章といった重要な章を中心に進め,議論の構成,論拠の種類を明らかにすべく努める.ペトラルカの学問に対する姿勢との共通性と相違点についても注目してゆく.
最終的に,こうした初期人文主義の学問論と16世紀数学論論争とを比較し,連続性と相違を明確にした上で,成果を発表する.『科学史研究』での論文,あるいは現在準備中のフランス語著書に反映させるという形をとる.

次年度の研究費の使用計画

当該年度においては,購入予定の書籍がより廉価で購入できたため,また複写予定の文献が所蔵先の図書館により複写不可能とされたため(但し,研究計画遂行上の影響は軽微であった),予算より実際の出費額が若干少なかった.ただ,研究計画自体は予定より早く消化できている.
次年度においては,研究費の一部は例年通り,ルネサンスから初期近代にかけての科学史および思想史関連の研究図書購入にあて,とりわけ初期人文主義の学問論に関する既成研究のサーヴェイに役立てる.また,引き続き海外図書館からの一次および二次資料複写にも出費する予定である.今年度は最終年度であり,科学史学会をはじめとするいくつかの学会や研究会での研究発表を予定しており,そのための出張費も出費される.また,現在準備中のフランス語著書があり,そこには本研究計画の主要な成果が反映される予定であるが,そのための原稿のフランス語校正料が必要になる(ただし編集責任者による出版許可が遅くなれば,この出費は本計画内では行われない).

  • 研究成果

    (1件)

すべて その他

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 学問とは何か,それは何の役に立つのか――ルネサンス学問論から学ぶ

    • 著者名/発表者名
      東慎一郎
    • 学会等名
      第3回九州数学史シンポジウム
    • 発表場所
      九州大学

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公開日: 2014-07-24  

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