研究課題/領域番号 |
23501209
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
宇仁 義和 東京農業大学, 生物産業学部, 准教授 (00439895)
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キーワード | アメリカ自然史博物館 |
研究概要 |
1.アンドリュースの日本での活動:アメリカ自然史博物館(ニューヨーク市)でアンドリュースが日本と朝鮮で収集した鯨類標本の所蔵状態調査を行ない、データベース上では29点のうち19点の保存を確認した。また、収集者非記載の鯨類標本4点とデータのない鯨ヒゲ数百枚について、書簡や種、コレクションの状況から同氏の収集品と判断し、同館担当者に伝えた。文字資料では昨年に引き続き書簡を複写したほか、未刊行で伝記でも引用されていない日本と朝鮮での調査日誌を複写した。写真資料では日本と朝鮮、東南アジアの風景を含む閲覧用プリントをスキャニングした。写真は社会史の記録としても重要と思われた。 2.日本の近代鯨類学草創期:近世鯨類学と近代鯨類学の接合に関連して、太地町立くじらの博物館とケンショク「食」資料室の鯨絵巻を比較検討し、「紀州系」絵巻の一部の系統を確定した。鯨類学に先行して進展した近代捕鯨の状況について、ニッスイパイオニア館(北九州市)に明治大正期の東洋捕鯨の資料が保存されていることを発見し、一部を複写収集した。 3.「第一鯨学」の展開:太地町立くじらの博物館の構想から建設時の資料を調べた結果、西脇昌治が総合プロデューサーであったことが判明した。収集資料は水産研究者の協力も大きく、同館はふたつの鯨類学の総合力で開館したと評価できた。 4.マリンランド導入の歴史:1930年代に阪神水族館が実施したイルカ飼育の文献と新聞記事を収集した。1950年代のイルカ飼育関係者からの聞き取りが困難であるので、それに代えてNHKアーカイブス保存番組を用いた映像資料調査を考え、2013年度の「NHKアーカイブス学術利用トライアル研究II」に応募し採択された。年度内には視聴対象番組の選択を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.アンドリュースの日本での活動:順調に進んでいる。予定以上の資料発掘ができている。 2.日本の近代鯨類学草創期:やや遅れている。閲覧予定資料や目録記載資料が行方不明であったりすることが多く、資料発掘が進まない。その一方で、近代捕鯨に関する資料は予定外の発見があった。 3.「第一鯨学」の展開:やや遅れている。調査計画になかった水族館による海外調査が存在し、その調査が未遂であることによる。水族館の調査は記録が少ないが、聞き取りなどから実施内容を記載したい。 4.マリンランド導入の歴史:遅れている。聞き取り予定者が高齢なことや存命者が少数であることが理由である。聞き取りによる調査は限定的なものになることを予定する。代わって映像資料を用いた調査を行なうが、資料所有者の公開方法から視聴が2013年度前半となる。
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今後の研究の推進方策 |
1.アンドリュースの日本での活動:アメリカ自然史博物館での書簡と写真の複写の継続し、成果発表の方法を博物館側と協議する。将来の発展方向として、同氏撮影の写真はフィリピンやインドネシアなど東南アジアの社会史資料として有効活用できるような資料整理と研究体制の準備作業を行なう。 2.日本の近代鯨類学草創期:近代初期の近世鯨類学集成の再検討と資料調査から、鯨絵巻のなかの近代生物学の取り入れ度合いを評価する。明治大正期の東洋捕鯨の資料から、捕鯨会社の分類と資源状態の認識を調べるとともに、当時の鯨類学側の認識と比較する。対象が巨大で観察機会が限られることから、鯨類の知識は科学者よりも捕鯨者が優位であった状況が続いたという仮説を持つが、実際の知識と認識の差、そして鯨類学ではどのように追いつこうとしてきたかを明らかにする。近代生物学の導入後の日本での鯨類学は研究者がきわめて少数であり、国内での研究の進展よりも標本を海外の研究拠点に送ることで学術研究に貢献してきた経過が見えてきたので、仮説を実地調査で補強する。 3.「第一鯨学」の展開:研究者個別の研究史の概要、ほとんど外部に知られていない西脇昌治門下が水族館で行なった野外調査を跡づける。 4.マリンランド導入の歴史:NHKアーカイブスの映像資料を用いて、1950–1970年代イルカ飼育と輸送についての実情を記載する。この年代のイルカ飼育は個別水族館の創意工夫、地域の漁業者の協力が大きく、地域性が高かったと評価している。 成果発表:計画では研究年度中の簡易的な展示を予定していたが、旅費別途で訪問した韓国蔚山市の鯨博物館での展示の了承が得られたこと、アンドリュース撮影写真が地域的にも内容的にも広がりが予想以上であったため、本格的な巡回展示を研究期間終了後に実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究に要する費用のうち、科研費から支出するのは次の内容と計画する。 1.アンドリュースの日本での活動:書簡と写真撮影、発表方法についての協議のため、アメリカ自然史博物館を訪問する。アンドリュースの調査日誌のページ目次作成をアメリカ人研究者に依頼する。 2.日本の近代鯨類学草創期:江戸時代末期から明治大正期に海外に送った鯨類標本の所在調査と付随する日本側の調査文献を複写収集するため、ヨーロッパの博物館を訪問する。ニッスイパイオニア館の資料を精査し、近代鯨類学と近代捕鯨との接点資料を発掘する。 3.「第一鯨学」の展開:聞き取りと現地実見のために水族館を訪問する。 4.マリンランド導入の歴史:NHKの保存番組の視聴のため、埼玉県川口市にあるNHKアーカイブスを訪問する。
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