本研究は、素粒子論グループ(以下、素粒子論G)と彼らの活動と深い関係をもつ京都大学基礎物理学研究所(以下、基研)を、歴史的に調査、分析し、戦後日本の物理学界の発展との関係、さらに日本科学界全体に与えた影響を明らかにするものである。 この研究の目的に照らして、平成26年度ではこれまでの調査の補足、分析のまとめ作業を行った。重視した点は、基研の設立前後の系譜を考察するのに重要と考えらる、広島文理科大学理論物理学研究所(以下、理論研)の戦中の展開、California大学Santa Barbara校のKavli理論物理学研究所(以下、Kavli研)と基研の歴史的関係である。平成25年度からの継続研究であるこの二点について、平成26年度では次のように分析を深めた。 前者については、基礎研究を取り込んだ「数学・物理」分野の戦時研究課題に重きが置かれる政策下で理論研が設立されたという見方に加えて、国体論の設置や理科系教員の養成、戦時下の特別科学教育などにかかる広島文理科大学の存在感や、三村剛昻を中心とする波動幾何学グループの一部メンバーの国粋主義的思想(例:岩付寅之助『日本科学道』)などの影響も勘案して、理論研の設立を考察した。他方、こうした点は素粒子論Gの湯川・朝永たちの戦時の動向とは一線を画するところがあり、戦中の広島の理論研設立の特異性、それに対する戦後の基研設立の特徴を確認できた。 後者については、研究会運営制度に関する基研とKavli研の歴史的関係をKavli研関係者は否定しているが、1970年代末に設立されたKavli研と類似な研究会制度が1950年代の基研に築かれていたという点は注目に値する。また、基研の研究会制度が国内に向けられたものに対して、Kavli研の制度は国内外に向けられた国際的制度と言えるため、時代の変化にともなう研究会制度の発展の各段階ととらえられる。
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